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第35話

 二人は並んで芝生に座り、紙袋からハンバーガーを取り出す。倫がビックマックの箱を持つ隣で、稜而はダブルバーガーとフィッシュバーガーを手にしていた。 「稜而、二つも食べるの」 稜而はハンバーガーの包み紙を剥きながら、うんうんと頷く。 「フィッシュバーガーは魚だからおかず」 「あ、そ」 倫は稜而の渾身のジョークにも笑ってくれることなく、しなびたポテトを唇の間へ押し込み、黙々とハンバーガーに食らいついた。爽やかとは言い難い、排気ガスを含んだ東京の風が二人の身体を撫でていく。  規則正しいバイブレーションの鳴動に、稜而は顔を上げた。倫は眉間に皺を寄せ、ポケットから携帯を取り出すが、その画面を見るとますます不機嫌な顔になり、いきなり切ボタンを押した。 「いいの?」  稜而がとりなすように訊ねる間に、また携帯は震える。倫は迷わず切ボタンを長押しし、電源を切った。 「マジうぜぇ、ビッチ」 初めて聞く低い声で倫は呟くと、携帯を稜而のリュックサックへ投げ込んだ。  その機嫌の悪さと剣幕に稜而は首をすくめてダブルバーガーを食べ、倫の様子をこわごわ横目で伺いつつフィッシュバーガーを食べた。  公園の外を走る車の騒音が耳に障る。  倫は肉食獣のように前歯を立て、ハンバーガーを食いちぎっては咀嚼するのを繰り返し、ハンバーガーがなくなるとポテトを次々口の中へ押し込んで咀嚼した。  ポテトすら食べ尽くすと、ストローをくわえ、ぎゅうっとアイスコーヒーを吸い上げて、ようやく小さな溜め息をつく。 「さっき、本屋に行ったじゃん? 取り寄せの手続きをしてくれた人…………元カノ」 「ひぇっ? っ、げふっ、ゲホッ」 突然の倫の告白に、稜而は食べかけのフィッシュバーガーを持つ手で、自分の胸を叩いた。 「大丈夫?」  倫は背中をさすりつつ、稜而にウーロン茶の紙カップを差し出した。  稜而は口の中のフィッシュバーガーをウーロン茶とともに飲み込み、少しだけ鼻に入った白身魚の欠片をすんすん啜って、「あー」と息をついてから、倫の顔を見た。 「倫、彼女がいたの?」 「中学のときね。まさかあんなところでバイトしてるとは思わなかった。従姉の友だちで、家庭教師として勉強を見てもらってたんだ。先生って言っても大学生のバイトだけどさ。『先生、可愛いね。彼氏いないの?』って言ったら、付き合うことになっちゃった」 「大学生と付き合ったの?」 「中学生と大学生って聞くと差を感じるけど、五歳差なんて珍しくないよね」 「そう、かな。よくわかんないけど。……で、デートしたりしたの?」 「うん。ありきたりな感じで遊園地とかね。受験が終わるまではそんなに遊べなかったし、高校入る前には別れちゃったけど。ガキと付き合うのに飽きて、同じサークルの何でも言うことを聞いてくれる男と、社会人の何でも買ってくれる男に鞍替えしたんだけど、二股がバレたみたい。僕は何も知らないことになってるから、僕がニッコリ笑えば『よりを戻せるかも』って思っちゃうんだろうね。ふざけんな、ばーか!」 口の中に残っていた噛み砕いたオニオンの粒まで一緒に飛ばして叫ぶ。 「あー、気分悪い!」  倫は頭を左右に振り、そのまま芝生の上に仰向けに倒れて、暮れなずむ空を見上げた。 「倫って大人なんだな……」 稜而が呟くと、倫は空に向かって鼻で嗤う。 「全然。ハウツー本を買わなきゃセックスのやり方もわかんない童貞だよ」 「本屋のお姉さんとは、何もしなかったの?」 「んー。キスして、胸をちょっと触らせてもらったくらい。『触ってみる?』って言われたから」 「さすが大学生!」 稜而は感嘆の声を上げたが、倫に横目で睨まれてうなだれた。

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