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第41話

 生まれて初めてアルバイトをして、宿を探し、新幹線の切符を買った。  みどりの窓口で頭を寄せ合って時刻表を読み解き、カウンターで要領悪く二人で交互に補い合いながら説明をして、ようやく手に入れた切符を大切に握り、ふたりは新幹線の座席に座った。 「駅弁ってわくわくするね」 シウマイ弁当の蓋を開け、倫は声を弾ませる。  稜而もシウマイに辛子と醤油をつけながら、倫の耳に囁き返す。 「倫はもうひとつの『駅弁』のほうが気になるだろ?」 倫は噴き出しながら素直にコクコク頷いて、稜而の耳に囁き返す。 「あとでチャレンジする?」 稜而は耳を赤くしながら笑った。  新幹線を降りて乗り換えると、車窓から海が見えた。遠く水平線に近いところにだけ日があたり、海面だけが光って空と海の境界をはっきりと示していた。  降りた駅からも海が見えて、ふたりはまず海に向かった。  海には人工の砂浜があり、ビーチに沿って背の高いヤシの木がまだ冷たい風に枯れた葉をぶら下げて揺れている。 「天気予報は晴れだったのにねー!」  空は沖の方までずっと灰色の空に覆われ、海もまた空を映し(にび)色をして、水面から持ち上がる波すら重たそうに見えた。 「雨が降らなければいいし。降っても露天風呂は入れるだろ」  乾いた砂の上に稜而は座り、倫は棒切れを見つけてきて遊び始めた。 「小学校のときさぁ、プールの授業の途中で雨が降ってきたことない? あれ、好きだったんだよね。好きなだけ雨に濡れてよくて、目の前に波紋が見えてさ」  りょうじ、りん。  二人の名前を縦に並べて書くと、その上にハートマークを描き、三角を一筆描きして、二人の名前の間に真っ直ぐ線を引き、倫は稜而の隣に座った。 「寒くない?」  稜而は自分が着ているフライトジャケットの内側に倫の肩を包み込む。倫は素直に稜而の腰へ手を回して抱き着いた。 「卒業しちゃったねー。稜而、高校楽しかった?」 稜而はうんうんと頷いた。 「楽しかった。勉強して、剣道やって、倫とずっと一緒にいられた」 「僕とは、これからもずっと一緒にいるでしょ?」 見上げてきた倫の目を見下ろして、稜而は頷いた。 「もちろん。結婚はできなくても、一緒にいよう。死ぬまでずっと」 「うん。ずっと一緒。……今夜、楽しみだなー」 「俺も」  高校一年生の頃と比べたら見違えるほどに背が伸びて、卒業式の写真では学ランから手首も靴下もはみ出していた。背中も広くなり、倫には華やかさが、稜而には頼もしさが増した。  自分たちの後ろ姿がもう高校生ではなく、若者であることに気づかないまま、ふたりは抱き合い海を眺め続けていた。

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