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第44話*

 再び温泉に浸かり、身体を暖めてから、浴衣に綿入れ半纏を着て、足袋型の靴下を履き、囲炉裏の周りのテーブルで缶ビールの栓を開ける。 「卒業おめでとう、かんぱーい!」  備えつけの小さなグラスをそっとぶつけて、ふたりはビールを口にした。 「美味しいね!」 「苦い」 初めて酒を口にして、稜而は素直な感想を述べた。 「甘くないからいいんだよ。でも嫌なら割ってあげる。ジンジャーエールで割ったらシャンディガフっていうカクテルだよ」 グラスの半分をジンジャーエールで満たされて、稜而はするするとグラスを空けた。 「稜而はこっちのほうがいいかもね」 グレープフルーツ味の缶チューハイを渡されて、稜而は素直に飲んだ。特に酔う気配もなく、ただ倫と肩を並べてすいすいと飲む。 「ほろ苦いジュースみたいだ」 「大人の味だよねー」 倫は満面の笑みを浮かべて酒を口にする。その顔を見て、ふと心配になった。 「大学に入ったら、コンパってあるのかな」 「あるんじゃない? 新歓コンパ、クラスコンパ。合コンも行ってみたいなー」 「合コンに行きたいの?」 顔を覗き込む稜而の目をあっさり見返して頷いた。 「うん。だって面白そうじゃない? ゲームやったりして騒ぐの。稜而も一緒に行こうね」 「まぁ、一緒ならいいけど」 「僕以外をお持ち帰りしたらぶっ飛ばす」 「当たり前だろ」  ふたりは笑って、どちらからともなくキスをした。 「ねぇ、そろそろベッドに行く?」 「うん」  手をつないで階段を上がり、ツインのベッドを左右から押してくっつけて、持参したバスタオルを二重に敷く。  綿入れ半纏と足袋型靴下を脱いでベッドの上に上がり、ふたりは向かい合った。 「お願いします」 稜而の真面目な挨拶に、倫は照れ笑いしながら頷く。 「こちらこそ」  互いの膝頭をくっつけたまま唇を触れ合わせ、角度を変えて少しずつ口を開く。稜而が舌を差し込むと、倫の舌が迎えに来て、くっつけた口の中でぬるぬると舌を出会わせる。粘膜どうしが触れる感触は、なぜかいつも官能を呼び起こす。  ふわりふわりと体温が上昇し、下腹部に熱が集まるのを感じながら、しばらく抱き合って過ごすのが、昨日までのやり方だった。  今日、初めてふたりは互いの腰紐に手を掛けて、浴衣の合わせ目を暴く。肩から布を滑り落として、互いに両手を広げ、抱き合う。 「わあ、気持ちいい! あったかーい!」  倫の言葉に稜而も同意してさらにしっかり抱き締めた。  木綿よりきめ細かく、シルクより頼もしく、温もりに心が安らぐ。 「大好き、稜而」 「うん。倫、大好き」 しばらく抱き合ってからキスを再開し、倫がゆっくり仰向けに倒れるのに合わせて、稜而は倫の身体に覆いかぶさった。 「ちょっと重い、かも」 「ごめん。どうしたらいいんだろ? これならいい?」 ぎこちなく肘と膝で体重を支えながら、倫の髪に、頬に、唇を押しつけていく。唇の端に舌先を押しつけてみたり、唇を食んで舌先でくすぐったりして、倫が鼻にかかった声を出すたびに、稜而の身体に熱が増す。  首筋に舌を這わせ、胸の尖りに目が向く。そっと指先で撫でてみたが、倫の反応は薄く、口に含んで舌先で転がすと身体が震えた。 「んっ!」 「倫、気持ちいいの?」 「うん。お腹までむずむずする。気持ちいい」 「もっとしてあげる」 舌先に倫の尖りが触れると、稜而もくすぐったくて気持ちよかった。自然に吸ったりもして、その音と倫の喘ぎ声が耳に返ると、セックスをしているという実感がわく。  ゆっくりへそまで舌先で辿り、淡い茂みの中央にある、倫の分身を見た。  こんなに間近で見るのは初めてだ。頭をもたげて頼りなさそうに揺れている。均整のとれた美しい形をしていた。先端が少し露出し赤く熟れていて、稜而の喉が自然に鳴った。  稜而は平伏すように顔を沈め、倫の分身をゆっくり口に含んだ。 「はあんっ、ああっ!」  倫が一際大きな声を出し、左右に頭を振っていた。苦悶の表情に不安になって口を外す。 「気持ち悪い?」  倫は両手で顔を覆いながら、また、首を左右に振った。 「信じられないくらい気持ちいい。あとで稜而にもしてあげる」  稜而は頬を緩め、倫の分身を口に含むと、ゆっくり頭を上下させた。 「ああっ、稜而っ! あっ、あっ」  倫の雄蕊は口の中でぶわっぶわっと質量を増し、含みきれない根元の部分を手で補って、舌と唇で摩擦した。 「あっ、やあっ! 変になっちゃう」  泣きそうな倫の声に稜而は暗い嗜虐心すら煽られて、初めての口淫を続けた。  溜まる唾液に塩気のある液体が混ざってきて、これが先走りの味と理解する。手も口も緩めずに一層刺激すると、倫は稜而の頭に手を置いた。 「はっ、あ、いっちゃう!」  切羽詰まった声に構わず咥え続けていると、口内の唾液に苦味が加わった。その苦味は何度も加わり、稜而の口の中は唾液と苦味でいっぱいになって、リスのように頬が膨らむ。  進退極まった、と思いながらこぼさないようにゆっくり口を外し、顔を上げて、鼻で呼吸しつつ、どうにか数回に分けて飲み込んだ。  倫は頬を赤らめ、乱れた呼吸を整えていたが、稜而の喉が動き、頬が平らになるのを見て上体を起こした。 「の、飲んじゃったの?」 目を丸くする倫に、稜而はかぱっと口を開けてうんうんと頷いた。

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