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第2話
「うぅ……」
廃墟然とした建物から逃れるべく、藪の中を走って、逃げていた丸居が目を覚ます。丸居が横になっているベッドは見た目にも硬そうで、ひんやりと冷たそうだ。
そんな異質とも言える空気の中、丸居は覆い被されるように言葉を投げかけられた。
「お目覚めたぜ」
おそらく、ちょっとひょうきんな感じの男だろう。軽い日本語を使い、性格も軽そうに見える明るめの金髪にパーマをガンガンにあてた風貌。そんな彼は同じ年くらいの男に窘められる。
「お前、少し日本語崩れすぎ」
窘められたひょうきんな感じのする男とは対照的にこちらは重厚な黒髪をしていて、眼鏡の奥の切れ長の目は神経質そうに映る。そして、もう1人。言葉は発してないが、淡い茶色の長めの髪に人の良さそうな青年がいる。
彼らはそれぞれの性格を表すように三者三様のシャツやパンツを着ていたが、皆、同じ様に白衣を着ていた。
「って、彼が驚くだろ? あ、自己紹介が遅れたね。僕は佐伯(さえき)だ」
「斉藤(さいとう)で良いでぇーす」
「瀬川(せがわ)」
茶髪の男、金髪の男、黒髪の男の順で名乗られたが、佐伯と名乗った茶髪の男は話し方まで人が良さそうだった。
人が良さそうで……柔らかな物腰をしている。状況が状況でなければ、丸居は佐伯達と同様に名乗っていたかも知れない。だが、佐伯の次の言葉でその必要もなくなった。
「ああ、丸居君は自己紹介してくれないんですね」
「どうして、俺の名前を……ってちょっとっ!」
佐伯と名乗った男は丸居の問いには答えずに、シャツのボタンの縁に指をかけて、ボタンホールへ2つ、3つと落とす。その襟元は勿論、丸居の隆々とした美しい鎖骨が無影灯で照らされている様子や佐伯の妄挙へ抵抗する様子が画面を占めるが、斉藤と瀬川と名乗った二人によって拘束されてしまった。
「会社とかから出ている作品じゃなくて、大学生が数人で自主制作したもので、俺も先輩に他人には見せないという条件で譲ってもらったんですけど……結構、珍しいですよね? その手の作品に登場人物の名前がついてるのって」
「あ、ええ……ただ、それだけストーリーにも力を入れているという事なのかも知れないですね」
村井は淡々と続いた真宮の話からいきなり同意を求められたのが意外だったのか。少しだけ言いよどんだ様子を見せる。しかし、流石にプロという事だろう。何事もなかったかのように、滑らかに真宮の目の前にグラスを置いた。
先程のマティーニが入っていたグラスと同じようにボウルが逆三角をしたカクテル・グラスには白く濁った液体が注がれていた。
「そうかも知れないですね。それから、その捕まった丸居っていう男が佐伯と斉藤と瀬川。その3人に良いようにされていくっていうストーリーなんですけど、そのDVDを先輩に借りて見た後くらいにその時、つき合っていた女の子と上手くいかなくなってしまって……。俺は彼女と別れて、いわゆるSMを売りにしてる店に行ったんです」
真宮は村井が入れてくれたカクテルにやっと口をつける。
どうやら、このグラスも先程、バーテンダーが入れてくれたカクテルと材料が違うだけで同じギムレットらしい。1杯目とは甘みを演出する材料が違い、見た目も先程のギムレットは白く濁っていたのに比べ、緑がかったものだった。
真宮がグラスに口をつけ、緩やかに斜めへ傾けると、幾分か、すっきりとした甘さが広がった。
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