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第3話

「先程のギムレットにお入れしたコーディアルライムの代わりにフレッシュライムを使って、甘さを出すのにコアントローをお入れしました」  いかがですか、と村井が尋ねる。それに返すように真宮もにっこり笑う。どちらも美味しかったが、この2番目のギムレットの方が真宮は気に入った。 「ありがとうございます。それで……お店はどうだったのですか?」  村井の言うお店というのは勿論、SMを売りにしている店の事だ。真宮の頭がギムレットの味から先程の話へと戻る。 「でも、それも何かが違って……ダメでした。身体的にはなかなか満足はできたんですけど、終わった後はやっぱりプレイだなって感じで」 「成程。まぁ、私などは詳しくは存じ上げませんが、そのようなものかも知れないですね」  村井は相変わらず、過度な肯定も否定もせず、また新しいカクテルを作ろうとしている。  そう言えば、真宮がこうして村井に話をする時は勿論、真宮がここに来店した時も真宮を待っていた男とバーテンダーの村井しかいなかった。天候の事もあるが、あまり流行っていないお店なのかと思っていたら、間接照明に映し出される村井の所作も美しく、真宮に対する気遣いも素晴らしい。  多分、あまり人には知られていない穴場的な店なのだと真宮は思うと、また話し始めた。 「で、俺は……以前から恋人になってくれって言ってた男友達と寝てみたんです」  その日は気温が盛夏並みに暑い日だった。テレビにもスマートフォンにも「夏を前に30℃」というような文句が走っていて、うんざりしていた。 「クーラー、入れて良いよな?」 「うん、入れて」  真宮は男の問いに答えると、シーツの上へごろんと横たわる。まだ服は着たまま……何日か前に見たあの3人の男に犯される丸居青年と同じようにシャツを剥ぎ取られるのを待つ。 「真宮……」  男は部屋の外に流れている熱風を思わせるような声で真宮を呼ぶ。それに合わせるように真宮も男の名前を呼んだ。そして、男の指が真宮の着ているシャツの前立てを掴んで、ホールに留まっているボタンの縁に触れる。  もしかしたら、男は手慣れていないのかも知れない。  指の力が強く、なかなかボタンがはずれていかないのに対して、真宮は少しぐったりする気持ちを男の耳に触れながら紛らわせる。わざわざこの暑いのにTシャツではなく、ワイシャツで着てきたのは荒々しくボタンをはずして欲しかったからだ。だが……荒さはあっても、DVDの画に比べると、スマートさが足りない。  しかし、次の瞬間。真宮は声を上げた。 「アっ」  いつの間にか、全てのボタンがホールから引きはずされていて、シャツの身頃が重みで真宮の脇腹の外へ広がるようになって、曝されている。それから、薄いブルーのアンダーシャツが鎖骨の下の辺りまで捲り上げられて、男の少し歪な歯が真宮の乳首に触れたのだ。 「ぅン……」  真宮は弱く首を振ると、男の髪を柔らかく掴む。  僅かに乳首には痛みを感じる。だが、それも次第に真宮の脳内では何かの癖のように馴染んでしまう。その後は小さな粒状の突起が敷き詰められた男の舌に舐められると、真宮は快楽を享受し始めた。

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