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第8話
バーテンダーの村井から渡された紙面に書かれていた時間。真宮は同じくその紙面に書かれていた場所まで大学での実習を終えると来ていた。
村井に指定された場所の特徴を言えと言われたら、人気がない喫茶店で、賑わっている時間はモーニングや昼食時なのだろう。開店しているにも関わらず、やや若めに見える店主の他は真宮を待っていた男がカウンターに座っているだけだった。
「真宮様ですね」
深い色の木製のカウンターに軽く手をつき、男は真宮の方へ近づいてくる。はっきりとした目が理知的で、黒い細身のスーツを着てはいるが、冷たさやこちらを威圧するような感じではなかった。
「はい。真宮です」
「申し遅れました。私は曽根(そね)と申します。以後お見知りおきを」
曽根と名乗った男は軽く頭を下げると、まずは珈琲でも。と真宮に席と重厚な皮製のカバーのかかっているメニューを勧める。酒に続いて、珈琲もあまり詳しくない真宮は無難にメニュー表の1番上に書かれた珈琲を頼んだ。
すると、あまり待つ事なく、店主は真宮の目の前に珈琲カップを置いた。
「お待たせしました! はい、ブレンド1つですね。それでは、ごゆっくり」
珈琲を持ってきた店主は短い髪を金色に染めていて、真宮には店主というよりはアルバイトの店員に近いように感じた。だが、テーブルへと珈琲ソーサーやミルクピッチャーを置く手つきは1年2年、喫茶店に身を置いただけでは出せない繊細さがあった。
「どうぞ、飲みながらお聞きになってください」
「あ、はい」
真宮が派手な容姿をした店主に圧倒されて、ホールの方へ向かっていくのを目で追っていたからだ。曽根に促されるように真宮はカップに備えつけのポットから大きさが異なる角砂糖を2つ、3つ入れる。スプーンで押し潰し、細かく砕いたのをかき混ぜながら、ミルクを注いで、また同じようにスプーンの柄を動かす。
「今回は村井様から紹介を受けておりますので、請求についてはお気になさらないでください」
それから、真宮は曽根に請求やこれからの段取り等について一通りの説明を受け、「ご不明な点はございますか?」と言われる。
「特にありません」
「そうですか。まぁ、また何かありましたら、いつでも尋ねてくだされば結構ですので」
真宮は曽根に言われるままに書類へとサインをし、金髪の店主が淹れてくれた珈琲を口へ運んだ。曽根は、というと、真宮のサインの入った全ての書類に不備がないかを確認していた。真宮は曽根の言葉を待つうちに視界が閉ざされてしまった。
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