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第5話

「やっと終わった~」  今日1日、主に一緒に仕事をしていた相方が髪を結んでいた髪ゴムをはずすと、そんな事を叫ぶ。  確かに、少し疲れた。  時計を見ると、もう夜の7時が来ようとしている。朝から10時間。ただ、合間に昼食とは別に3時間近い休みを入れてもらっていたし、ただでさえ、稼ぎたいからバイトに来たのだ。それにバイクも壊れた為、思わない出費に見舞われて、遅刻ギリギリで来てしまったという引け目もあった。陣内は勉強会の最後の最後まで残ったが、不満ではなかった。 「お疲れ様!」  仕事を教えてくれた事務の人が来てくれて、講演会の方で余ったジュースや珈琲を手渡してくれる。 「陣内君もどうぞ」 「ありがとうございます」  相方だった女性はジュースのパックが入った箱を持ってきてくれ、陣内はジュースを受け取る。グレープフルーツにバナナ、あと、緑茶もある。相場はオレンジジュースなのだろうが、あの薬っぽい味が陣内はどうも苦手だ。なので、リンゴジュースを受け取った。 「お、陣内君はリンゴか~」 「え?」 「あ、リンゴって何か、神秘な感じだから。あと、禁断? 美味しいけどね」 「はぁ……」  相方の女性は陣内とは対照的に明朗で、人好きな感じがした。  陣内もここまででなくても良いから、人が好きになれればと思う。 「じゃあ、私はこれで♪ この箱はあとで撤収に来るらしいからそのままで良いらしいよ。お疲れ様」  彼女は陣内にふっと笑顔を向けると、ドアの外へ消えていった。  使われていた会場は、既に椅子の1つまで残す事なく撤収されていて、陣内は文字通り独りだった。  誰もいなくなった部屋。  ただ、まだ、外では慌しく、何かの勉強会に向けての準備がされているのだろうか。パタパタとした足音に、カートを動かすような物音が部屋の外では聞こえている。  陣内はストローを含むと、ジュースを飲む。ぬるくなっていたが、昼食の時から何も飲んでいなかった咽喉には良かった。  すると、外だけだった音が陣内のいる講義室の中に響いた。  部屋に入ってきたのはジュースの箱を回収しにきた事務の人だろう。シンプルな白いシャツを腕を捲って、明慈大学の校章の入ったネームプレートを首から下げていた。 「ああ、良かった。まだ残っている人がいて! 君、もう少し、働けるかな?」 「ええ、まぁ……」  気迫というのだろうか。  陣内は何も考えずに答えてしまった。  すると、事務らしき人は先程の気迫のまま、陣内に紙を渡すと、「じゃあ、悪いんだけど……」と言い、また、足早に廊下へ飛び出していった。  手渡された紙面にはこの講義室の階下にある資料室の場所が赤で丸がされていて、幾つかの書籍の名前が黒いボールペンで殴り書きされていた。

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