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第7話
「へぇ、陣内君というのか」
「はい、陣内要です」
柚木も評していたように確かに、目元、鼻先から顎の輪郭や指先の細かな造形までも整いつくしていて、女性からもてそうな感じだ。
しかも、骨は細そうだが、筋肉がない訳ではないのが分かる。
あまり見てはいけないのかも知れないが、文字通り、目を惹く容姿をしていると陣内には思えた。
「うちの大学……ではないよね?」
今朝と言い、資料室での事と言い、何だか、恐い感じの人かとばかり思っていたが、少し痛んだ畳の上で仕立ての良いパンツに包まれた長い足を投げ出す。ビールを片手にじゃが芋の煮っ転がしを美味しそうに食べている。そんな光景を見ると、違って見えてくるから不思議だ。
「ええ、柚木ってご存知ですか?」
「ゆうき……?」
「えーと、史学部の考古学・人類文化学科……だったと思うんですけど」
「ああ、4年生の柚木和真君だろ!」
明慈は人数が半端じゃない。だから、フルネームで学生の名前を覚えているのはゼミ生で担当教諭だったとしても珍しいとよく聞く。
容姿、肩書、さらに記憶力までケチがつけようがない。陣内は純粋に凄いと思う。
「ああ、俺の講義を受けている全員の学生を覚えている訳じゃないんだ。俺の専門は心理だから女の子が多くてね。だから、男の子は特に印象に残るんだ。でも、彼はそれだけじゃなくて、目のつけどころが面白いと思うんだ」
「確かに、凄いヤツですよね。高校の時からあんまり勉強してなくても、俺より成績良くて。あ、俺とあいつは高校が一緒だったんです」
「なるほど、旧友か」
「ええ、あいつは社交的だし、頭も良いし、俺とは全然違うんですけど、変に合わせてくれたりしないからこっちも無理に寄せたりしなくて良いんです」
「そう……」
一瞬、逢坂は何か考え込んだようだったが、すぐに次の話へ移っていった。
バイクや車の話、互いに通う学校の話、好きな食べ物や酒の話など。実に色んな話をした。初めて話をしたというのに、逢坂はやはり心理学の専門家なのか、話を聞いてくるのが上手い。あとは、逢坂自身の話も面白かった。
実は、陣内自身は少し、話すのが苦手だと思っている。ただ、今日だけは逢坂のお陰でそんな事はないのではないかと思える程だった。
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