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第9話
陣内が柚木の誘いに乗って、明慈大学の勉強会のスタッフとして働いた日。それから、1週間程が経った。
陣内のバイクは3、4日もすれば直る予定だった。だが、修理するのに必要な部品を名古屋の方から取り寄せないといけないらしく、まだ直っていなかった。
せめて誰かの誘いなり、バイトなりがあれば、別なのだが、普段から使い慣れている足がないとそれだけで外出が億劫になるものだ。それに元々、人と関わり合いになるのが苦手な性質だと陣内は思っていた。
勿論、柚木のように例外はいるが。
「それに、あの人……」
陣内はベッドに身体を預けて、天井の木目を眺める。
陣内の呟いた『あの人』。
それは勿論、あのバイクが壊れて、タクシーに乗り、バイトに行かざるをえなくなった日、出会った逢坂の事だ。
「こんな時にまた一緒に食事にでも行けたらな……」
陣内は起き上がる事なく、視線を天井の木目からローテーブルに置きっぱなしになっているスマートフォンを向けた。
逢坂が電話番号やメールアドレスを打ち込んでいる時、自分は可愛い女の子でも、綺麗な女性でもないのに。と陣内は思っていたのに、逢坂とまた会える方法がある。その事が嬉しかった。いくら、逢坂が話をするのにも、させるのにも長けていたとしても、彼のいる時間や空間が居心地の良いものでも、こんな事は柚木以外では初めてだった。
ただ、あれは逢坂の社交辞令だった可能性もある。その方が可能性としては高いし、たまに、画面の上部に現れるメッセージを嬉々として見て、迷惑メールが届いただけだと理解すると落ち込んだ。
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