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第10話
「もう一眠りするか」
陣内は誰に聞かせる訳もなく、そんな事を口にして、ローテーブルと逆に壁の方に身を捩ろうとした。
捩ろうとした……陣内はそうはしないで、スマートフォンを取ろうと、無精な態勢でローテーブルへ伸ばす。画面に『逢坂章久』と表示されていたのが遠目からでも分かり、急いで取ろうとしたのも悪かった。うっかり着信拒否の方に陣内の指が伸びかけ焦ったが、何とか応答する。
「はい、陣内です」
そんな風に名乗ってみたが、相手も分かってかけている筈なので、間が抜けた感じがした。
「陣内君? 逢坂です」
「こんにちは」
陣内は素直に嬉しいと思ったが、声はそれに反して、硬いものが出てしまう。
こんな風に誰かに構ってもらえる事。それは、陣内にとって煩わしいものだと思っていた。だから、どんな風にそれを示せば良いのか。今の陣内にはまだ分からないものだった。
陣内は先程よりは柔らかい声が出るように思いながら、次の言葉を紡ぐ。
「どうされたんですか?」
「ああ、また食事でもどうかと思ったんだ。勿論、陣内君が良ければだけど」
あの食事をした席で、お互いに一人暮らしだという事は知れている。
「良いですよ。ただ、少し問題があって……」
「ああ、バイクだろ?」
そう言えば、あの席でバイクの事も話したのだと陣内は逢坂の言葉で思った。
陣内は「はい」とだけ返す。
「じゃあ、君の良い場所へ行こう。今、車に乗りたい気分なんだ」
逢坂には単に、「車で行く」と言う事もできただろう。ただ、「車に乗りたい」と言うのは彼の強引な優しさではないかと思う。
というより、彼の言葉はそれが滲み出ている気がするのだ。
「分かりました。では、場所は……」
陣内の住んでいるアパートは住宅地にかなり入り組んだ場所にある。陣内はアパートのある通りに近い大通りにあるコンビニを待ち合わせの場所にすると、電話を丁寧に切った。
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