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第11話

「今日はどこへ行こうか?」  逢坂が陣内の指定したコンビニの駐車場へやってきたのは、陣内が来てから10分もかからなかった。  逢坂が「遅くなってごめんね」と謝り、陣内を車に乗るように促す。 「お邪魔、します」  陣内はぎこちなく会釈して、律儀にシートベルトを締める。  逢坂の車のエンジンの上部はシンプルだった。そして、外国人の甘い歌声とメロディーも会話の邪魔にならないくらいに聞こえてくる。  また、車には独特の匂いがつきものだが、逢坂のそれは不快なものではなく、ますます好ましいものに思えた。 「この前は和食だったから違うものが良いかな?」 「あ、そうですね」  どこで食事をしようかという話なのだが、これが柚木なら思いつく場所もあるのだろう。逢坂とは違い、柚木は同級生であり、友人でもある。単に今、自分が食べたいものを言っても良い。  だが、逢坂は違う。  現に陣内は逢坂がどんな服を着てきてくるか。分からなかったから悩んで、悩んで、スーツに袖を通してきた。何をいくらくらいで食べているか。それさえもこの前と同じような店に行くとは限らないから1か月分の食費を財布へ突っ込んできたのだ。 「お任せします」  とだけ言葉にするので、やっとだった。 「うーん。じゃあ、今日は洋食にしてみようか」  逢坂はゆっくりハンドルを切る。  その際に、彼の背広から少しピンクの袖口が見える。男にとって、着るのが難しい色のように思うが、そんな事を感じさせる事もなく、着ている逢坂はさすがだと思う。 「ん? 音楽、切ろうか?」  陣内は知らないうちに逢坂を見つめていたらしい。  それに対して、逢坂は何も言わない陣内に適当に隙をくれる。  陣内は慌てて、「音楽は切らなくて良いです」と逢坂の提案を断り、窓の外を見た。窓の外では寄り添うように歩く恋人の影が並ぶ。夕方ランニングをしている老人とその影が走っていく。  日曜日の夕暮れは何となく、寂しい気分にさせるが、今は気持ちが高揚しているのか、そんな事を考える事もできなかった。

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