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第12話
「え? それ、本当ですか?」
陣内はドイツの家庭料理を出す店の窓際の席で鮭とオリーブのマリネを飲み込む。
逢坂は水の入ったグラスを遊ばせながら、答えた。
「ああ、君と同じくらいの時に1人つきあって、それから別れた。傍にいて欲しい時にいない最低な男よりは傍にいてくれる人の方が良いよね?」
「そんな事は……」
陣内はなんて口にすれば良いのか、分からなかった。
いや、否定する事が望ましいとは思ったが、そんな意味合いの言葉が口の外に出る事はなかった。
しかも……
「って、言葉に困るよね。というか、陣内君は話を聞くのも上手いから、つい気持ちが軽くなるんだ」
「いえ……それで、その人はどうなったんですか?」
折角、逢坂は気まずい会話を終わらせてくれるきっかけを作ってくれた。それなのに、陣内はその話を引き戻してしまった。
どうかしている。
ただ、少しだけ、この神様に二物も三物も与えられて愛された男(ひと)。その男(ひと)愛された人物の末路を聞いてみたいと思った。
「どうなった……そうだね、今は分からないけど、最後に会った時、その人には新しい人が隣にいてね。幸せそうに笑っていたよ」
「そう……なんですか……」
もう逢坂はその人に未練はないのだろうか。
逢坂の口調も、表情も、慈しむようではあったが、ひきずったものではなかった。ただ、それはあくまで陣内の見ただけ、聞いただけの事だが。
「すみません、何だか、余計な事を聞いてしまったみたいで」
「いや、別に構わないよ。それより、俺は君の方が驚いたよ。いかにも、もてそうなのに」
逢坂は遊ばせていた指をパタリと止め、グラスを持つ。それから、一口だけ水を咽喉へ押しやる。
形の良い咽喉仏が微かに動く様はゾクッとする程、淫靡に映った。
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