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第13話

「いや、俺、バイク乗るぐらいしかしないし」  陣内はマリネを突いていた箸を止める。  ただでさえ、見た目も華やかで、巧みな話術と細やかな気配りができる逢坂とは陣内は似ても似つかない。  しかし、陣内も醜男ではない。確かに、見た目は華やかという訳ではないが、顔立ちも整った方である。体躯もやや長身すぎるが、しなやかで均整がとれている。それに、性格も寡黙で、不器用な感じがするが、誠実そうという言葉を裏切らない男だった。  すると、逢坂はソーセージにフォークをつき立てながら、口にした。 「人間には興味が持てない?」 「えっ」  陣内は言葉をなくした。  突然に。不意打ちのように。考えた事がなかった事を言われる。ただ、逢坂はすぐに言葉を変えた。 「変な事を言ってごめん。この話はもう終わりにしよう」  それから、陣内達のテーブルにメインのアウフラウフが運ばれてきた。  アウフラウフ、ドイツのグラタンのようなものらしい。じゃが芋が入っていて、見た目は胃に重そうで優しくなさそうに見えるのだが、芋の味を生かした、あっさりとした味つけが陣内の好みに合った。  それから、食後に珈琲と小さなザッハトルテが運ばれてくる。酸味の多い珈琲よりも苦味の多い珈琲。砂糖を少なめに、質の良いチョコレートの甘さが好ましいケーキ。  まるで、陣内の好みに誂えられたもののように思えた。 「今日はドイツの料理にしてみたんだけど、口に合ったかな?」 「はい、とても美味しかったです」  陣内は先程の料理に対して感じた事を述べ、礼を言う。  どうやら、逢坂はドイツの方の大学院へ通っていたのだと言う。今日、陣内を連れてきた店はその逢坂でもイチオシのドイツ料理を出す店らしかった。  すると、逢坂も言葉を返す。 「やっぱり、じゃが芋は味を生かしたものが良いよね!」 「そう、ですね……」  ちなみに、会計は陣内が1000円を支払い、逢坂が残りを出した。  そして、逢坂に連れてきた時のように陣内は助手席に乗り込んだ。  その間にも陣内と逢坂との会話はあったが、陣内はぎこちない言葉を繰り返していた。その心の中では何かが疼いて、それを放っておく事はできなかったのだ。

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