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第14話

「あの、先生……」  店に来る前と同じように軽やかにハンドルを切る逢坂に陣内は呼びかけた。  厳密に言えば、陣内と逢坂は先生と学生の関係ではないので、「先生」というのは、多少、妙な気がするが、「さん」づけは何だか苦手だ。あと、一応、逢坂の方が年上なので、呼び捨てもできそうにない。 「何かな? 陣内くん」 「あの、さっきの話なんですけど……」 「さっきの?」  陣内は内心、「しまった」と思った。  墓穴を掘る。地雷を踏む。とにかく、そんな言葉が合うような状況だが、陣内に上手く取り繕って、誤魔化すという選択肢が使えるとは思えない。もう後には引けなかった。 「確かに、俺は誰かに興味を持てないのかも知れないです。どうしてかは分からないんですけど……何だか、少し面倒な気がして……」  陣内がたどたどしく言葉を紡いでいるのとは反対に。珍しく、逢坂の方が何も言わない。  逢坂は無言のまま、右手はハンドルに添えたまま左手で先程までかかっていた曲を切った。それから、音楽を停止した指をスイッチから胸の内ポケットへ消した。  煙草だろうか?  ただ、喫煙者であれば、食事の席でも吸っているだろうし、逢坂が着ているものの良さそうなスーツにも匂いがついている筈だ。  そんな事を陣内が考えていると、再び現した逢坂の手にはやはり煙草は握られていない。 「ごめん、ごめん。じゃあ、君の家に着く前に少し考えてみようか? その面倒な理由をさ」  逢坂は優しい声で提案すると、陣内の承諾を得ないまま、車を走らせた。  強引な優しさ。  元々、陣内も話を聞いて欲しいと頼む事が苦手なので、これぐらい強引な方が良いのかも知れない。  陣内を乗せた車は今日、最初に待ち合わせたコンビニを通り過ぎる。陣内のアパートは密集した住宅地に位置するが、道を少しはずれると、田んぼも見えてきて、車を停めても、誰の邪魔にもならないような場所もあった。

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