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第16話(R18)

「最初は優しい君の事だからつき合っていた。でも、本当に好きにはなれなかった」  その声は甘く、優しい声だったが、今までの逢坂のものとは思えない程、攻撃的なものが含まれていた。  それはまるで隠したいものを暴かれるような感覚がした。 「彼女は段々、君を愛するより君から愛される事を願っていく。でも、君はどうやって好きになれるかが分からない」 「そんな……」 「違うのかい? まぁ、例え話だからね。でも、人を愛せば、その感情に振り回される。愛さなくても……人を愛する感情と共に、その人は去っていく。そんな過程は君に選択させる」 「せ、せんたく……?」  陣内は声を喉に詰まらせながら、何とか言葉にしようとする。  一方、逢坂の指は腹部を滑り終えてしまったらしい。胸部、腹部と躰を下りてきて、辿る先はもう言わないでも分かる。 「そ、そこは!」  次の瞬間、陣内は引きつったような声を上げてしまった。 「まだ、上から触れているだけだよ? それで、そんな声が出るなんて」 「あ……あ……」  短く紡がれる陣内の声。  その一方で、優しく、慈しむような逢坂の声をしている。ただ、その指は容赦がなく、じわじわと圧力をかける。陣内のスラックスの滑らかな生地で陰嚢が軽く押し潰された。込められる力は徐々に強いものになっていっているが、決して痛かったり、荒々しかったりする訳ではない。  しかも、割と、自分で慰める時に強い刺激を陣内は好んでいる。ただ、逢坂のもたらす弱い刺激と心の中に入り込んでくるような質問とに陣内は追い詰められてしまう。 「ああっ……!」  下手をすると、夜の静けさに溶けてしまうようなか細い声だった。  しかし、逢坂は聞き逃さなかった。 「君は人間に興味がない訳じゃないんだ……。君は……」  逢坂の呟いた声もまた静かだった。その静かな声は抑揚もなく、何かの感情も伝えようとはしなかった。

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