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第19話

 陣内が家を出る1時間前、まだ、雨は降り出したばかりだった。空を覆う黒雲も段々と濃くなり、徐々に雨足が強くなっていく。ただ、本降りになるまでに陣内は明慈大学のキャンパスに入れたため、雨に濡れる事はなかった。  あの留守電を聞いた後、逢坂から1通のメールが送られてきた。そこには、幾つかの指示が書かれていた。  16時過ぎに、明慈大学にある逢坂の研究室へ来るようにというのもその1つだ。他には、もし、バイクが直っていても、バイクではなく、電車とバスで来るようにという事。それと、もう1つは…… 「っ……」  思い出したくもない。  と陣内は強く否定した。だが、腸内の何も入っていない、スッキリとした感覚が嫌でも陣内に訴えてかけてくる。  あとは、心なしか、痔にでもなったように入口付近にも痛みも感じた。 「でも……」  陣内に行かないという選択肢はない。その痛みに意味がなくても、それを何とか乗り切って、振り切るしかない。  逢坂の研究室。元々、心理学部の教師は外国人も多かったという事もあるらしく、小さなチャペルに面した廊下の突き当たりに位置していた。  これがもし、晴れていたら、ステンドグラスに夕日が映えて綺麗なのだろう。  今はただ、静かな雨音が聞こえる中、聖母像が優しげな眼差しをしていた。 「陣内です」  陣内は突き当たりの部屋の前で立ち止まると、そのドアを軽く叩く。  古い木でできたドアに、新しい木でできたネームプレートがかかっていて、シルバーのアルファベットが静かに光っている。朝、届いたメールに書かれていた通り、「AISAKA」とあった。  そして、しばらく……おそらく、そんなに長い時間ではなかったと思うが、しばらくして、聞き知った声が入室を促している。  陣内は「失礼します」と何とか言うと、ドアのノブを手にとって、回した。

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