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第21話
「まぁ、これは君に渡すなり、内容を消去するなり君の良いようにしてあげるよ」
「……」
逢坂の提案に、陣内は何も言葉を発さない。
というのも、陣内が想定した逢坂の言葉にはその提案も入っていたからだ。
ただ、いくら昨日の会話を回収できたとしても、逢坂がコピーを作った可能性はある。また、もし、そのような事実が存在しなかったとしても、まだ彼の口にした通りに事はなされていない。その実行を笠に着て、昨日以上の行動に出る可能性もある。
要するに、どんな形であれ、疑惑は残ってしまう。
「ああ、信用はできないね。こんなヤツの言う事だし」
表情が硬いままの陣内に逢坂はわざとらしく言ってのける。
こんなヤツ。逢坂は昨日の食事の席でも自分の事を評していた。その表情は明るい。明るすぎて、眩しくも感じた。
ざわざわとしたものを陣内の心の中に呼び起こさせる。
「そんな事はありません。俺は……」
不相応な悲しみ。それに、苛立ちに似た何か。陣内は反抗よりも、そんな感情から何かを言おうとするが、その言葉は濁っていく。
その一方で、逢坂の切れ長の美しい目が大きく開く。
おそらく、陣内に何かを言われる事を想像していなかったのだろう。だが、それもすぐに元へ戻り、逢坂は本棚と長机との間を鮮やかに通り抜け、陣内の半歩先まで歩み寄る。その顔には優しげな笑みが浮かべられていた。
「本当に君は優しいね。じゃあ、これを他人の耳には入れない。その代わりに俺の言う事を聞くのはどうかな?」
「……言う事?」
陣内がその言葉を言い終えるか、言い終えないか。
逢坂の形の良い指は録音機を仕舞うと、陣内の若さのある胸板を曝していた。
「せんせっ!」
「今更、説明も要らないだろう?」
吐き捨てるように言った逢坂は言葉と同様に陣内の衣服も。身につけているものは剥ぎ捨てていく。幸い、今は蒸し暑い時期なので、外では雨が降っていたとしても、寒さは感じない。
ただ、ドアと壁で遮られているとは言え、こんな公的な場所で何も着ていない陣内は酷い羞恥心に襲われてしまう。
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