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第22話

「恥ずかしい?」 「そんな事っ……」  こんな姿にしておいて、そんな事を涼しい顔で聞いてくる逢坂に陣内は眩暈さえ覚える。  恥ずかしいか?  そんな事、当たり前だった。しかも、そんな考えは見透かされていたのだろう。逢坂の言葉が降りてくる。 「それは困るな……これから、もっと恥ずかしい事をするのに」  口元を優しく緩ませた逢坂の眼鏡の奥にある目が笑ったように見えた。  冷たい訳ではない。ただ、そこに温かい感情はない。  まるで、捕食を企んでいるような眼だった。 「せんせ……」  それから、逢坂の唇が陣内の鼻筋に唇を近づけられた。その唇は形が良く、美しい赤い色をしていた。陣内はそれだけで何とも言えない気分になった。 「ふ……」 「ああ、久し振りかな? それとも、初めてかな?」  逢坂に「息はして良い」とからかわれると、ただでさえ、恥ずかしい姿なのに、さらに追い詰められ、居た堪れなくなる。  逢坂の唇は次第に陣内の鼻筋を降りていき、陣内の口元を掠める。 「あ……」  陣内の唇から声が零れる。  そのまま、逢坂はその唇を奪う事もできるのに、それはしなかった。 「え……」 「そんな顔をしなくても、最後に、ね」  逢坂の指すそんな顔とはどんな顔なのだろうか。  もの欲しそうな顔、情けない顔。陣内には色んな顔が想像できた。  ただ、どんな顔をしていても、柔らかい逢坂の表情には叶わない。それは捕食を企んでいるような眼、射るような眼さえも忘れてしまう程だった。  だが、忘れてはいけない。騙されてはいけない。  優しさのある笑顔が逢坂という人間の武器なのだ。その笑顔に、明慈大学の女子学生も、その母親も、そして陣内も騙されて、落とされた。 「あぁっ」  蒸し暑さを感じるのに、まるで、石のようにひんやりとした床へ押し倒され、陣内は愛撫を受ける。  それは胸の辺り。乳首に先程の口元を掠めた逢坂の唇が触れる。  昨日も感じたもどかしい感覚だ。 「……っ……はっ」  昨日はシャツの布地で擦れていた。それだけでも拒みきれない程の感覚だった。  それに対して、今は唇だけの優しい愛撫。ほとんど、刺激がない上に、素肌である分、もっと強い愛撫を願ってしまう。  ただ、逢坂に縋り、強請りついてしまうのは避けたかった。

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