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第24話
「陣内君、陣内君……」
1回目は優しく、2回目は少し強めに名前が呼ばれる。
何だか、よく眠っていた気がする。十分に睡眠をとれた後の幸福感のようなものが陣内の胸によぎった。
ただ、それも束の間の事だった。
「起きれる?」
「せ、先生っ!」
陣内は身を硬くした。
思えば、今日の朝は逢坂のメールを受け取って、夕方に指示の通り、逢坂の大学の研究室へ向かった。
そして……
「昨日はあまり眠れなかったんだね」
よく見ると、逢坂は眼鏡をかけていなかった。あと、大学ではスーツだったが、今は、背広とスラックスは脱いで、ラフな黒のパンツを履いている。
一方、陣内は若干肩幅の違うシャツを1枚だけ着せられていた。多分、逢坂のシャツなのだろう。
下着は履いてなかった。
「君のスーツはクリーニングに回している。少しくしゃくしゃになってしまったからね」
くしゃくしゃになっていたのは昨日も逢坂との食事に着て行ったスーツを着ていたからだ。流石に、スラックスの方はこんな事になった原因で、汚れてしまった。そのように陣内は思ったので、着る気にはなれず、冬用のスーツに夏用のスラックスを着ていた。そんな訳で日が経っていたものを着ていたせいもあるのだが、逢坂は言わない。
彼はやはり優しい人間なのだ。優しげに微笑んで、水の入ったグラスを陣内に手渡してくれる。
陣内は素直に受け取った。咽喉は渇いていたのだ。
しかし、それが逢坂からのものだと考えると、悪いとは思いつつも、警戒もしてしまう。
「何も入っていないから飲んで良いよ。と言っても、君の自由だけど」
また、心が見透かされるように告げられ、陣内はそのグラスを手のやり場に困ってベッドサイドに置いた。
ベッド。そう言えば、逢坂が運んできてくれたのだろうか。
そこは大学の一室ではなく、マンションの一角のようだった。
「あの、ここは……」
と陣内は聞いてみるものの、おそらく、逢坂のマンションだろう。
大学の逢坂の研究室とは違い、照明やソファ、ベッドといったインテリアは近代的だ。それに、ベッドのすぐ傍には窓もあるのだが、大学の庭が僅かに見える鉄格子がはめられた窓とは対象的に外のよく見えそうな、解放感のあるものだった。
「華やかな夜景って訳じゃないけど、落ち着く光が見えるんだ」
逢坂は世間話をするように軽やかに舌を滑らせた。
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