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第26話
朝、逢坂の部屋には優しい光が入り込んでくる。
本日の天気は晴れ。だが、午後からはまた雨が降るという梅雨時期の何とも不安定な天気らしい。
「……」
逢坂は大学へ行ってしまった。
逢坂のいない、逢坂の部屋に陣内はいた。
「今日は学校か?」
「今日は……あります」
逢坂と出会ったのは日曜日だった。その1週間後に逢坂と2回目の食事に行って、帰りの車の中で躰を弄られた。
その翌日は月曜日。夕方、逢坂に大学へ呼び出され、また躰を弄られて、射精されられた。
その翌日の翌日は火曜日。つまり、今日となるが、今日は朝一でプログラム演習の授業がある日だった。
「悪いけど、今日は休んで欲しい。君を送っていくだけの時間がない」
そんな事を言い残し、逢坂は陣内の朝食を用意する。
そして、
「あっ……」
行ってきますと言う代わりに、逢坂は陣内の唇にキスをした。そんなに長い時間の事ではない。
しかし、確かに自分の近くにいた逢坂はいなくなっていた。
取り残された形になった陣内は同意も否定もできなかった。
「結局、あの人は俺をどうしたいんだろ」
誰もいなくなった部屋の中、陣内は食器の汚れを落としていた。水の音に紛れて、陣内は思っていた事を呟く。
「抱きたいなら、いくらでも相手がいるだろうに。それとも、男にはもてない人種なのか? ……もてない人種。あの人、悪い人なのか?」
それらは文脈のない取り留めない言葉のように思えた。
夕べは結局、逢坂に薬を塗ってもらって、下着とパンツを貸してもらって寝た。疲れていた事もあったのか、また熟睡してしまったのだが、寝ている時まで嬲られ、弄ばれた。そんな事はなかったと思う。
ただ、薬を塗り込められる時。逢坂の「動かないで」という声の凛々しさや性感を煽るような長い指を思い出す度に消え入りたい程の羞恥にかられる。
蛇口から流れていた水を止め、フッと横を向いたところで、食器洗い機が陣内の目に飛び込んできた。
「あ……」
昨日の薬の事と言い、先程のキスの事と言い、陣内はただ、恥ずかしかった。
「これから……」
これから、どうしよう。
帰るべきなのか。ただ、鍵は逢坂が持っていたのではないか。
念のため、陣内は部屋の出口、玄関まで足を向けてみた。
靴は陣内の履いていた皮のブーツが1足あった。その横に、鏡張りの靴用のクローゼットがあり、鍵穴やチェーン、覗き穴があるドアがある。
陣内は細長いノブを押し、そのドアを開けてみた。
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