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第27話
結局、陣内は玄関のドアを開けると、静かにノブを引いて、リビングへ戻ってきた。
元々、人の部屋だし、勝手に家捜しをすべきではないだろう。陣内はそう思うと、自分のスマートフォンを手に取る。
そして、無造作に幾つか、アイコンを押した。
ちなみに、陣内のスマートフォンはダイニングに用意された朝食のサラダの器の横に置かれていた。
他にも、陣内のパンツのポケットに入っていた家の鍵やバイクの鍵、何かの拍子に入れた輪ゴム、バス代で余った小銭の何枚かがひとまとめに置かれている。
流石にここにはない陣内のバイクの鍵やこの小銭ではバイクやタクシーには乗れないが、電車に乗れそうだった。
ただ……
「あの人もせめて、部屋から出るなって言ってくれれば良かったのに……」
逢坂に借りているものではあるが、今、着ている服を着て、自分の住んでいるアパートへ帰る。物理的には可能ではあるが、そんな事はできない気がしていた。
それは録音器の件で、慎重になっているせいか、それとも、また、別の理由か。まだ、これが次、逢坂が帰ってきたら、殺されるかも知れないと言った生命の危機というのであれば、細心の注意を払って、外へ出て、助けを呼びに行って……と話は違ったように思う。
しかし、今のところ、逢坂にそのような危害を加えられたとは言えない。
勿論、陣内の気持ちを逆手にとって、その気持ちを踏みにじるような事はされた。
「それが……」
それが彼の全てなのか?
陣内は指の止まったスマートフォンを置かれていたテーブルへ戻した。
答えの出ない問題は疲労感しか生まない。しかも、それに答えなどなくても、人はつき合える。
今までだって、そうだったのだから。
「だったら、何故、こんなに気になるんだ?」
そんな言葉が陣内でも知らない間に、口から零れる。
分からなかった。
というより、答えはない、分かる事なんて何1つないような気がしていた。
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