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第28話

逢坂のマンションで陣内が過ごすようになって、あっという間に次の火曜日が来た。  マンションで過ごした最初の朝は早朝会議があったらしく、逢坂は陣内を自宅へと置いていった。  しかし、会議があったのはその日だけで、次の日からは陣内の通う学校へ車を走らせてくれた。  しかも、帰りもどこかで待ち合わせて、一緒にマンションに帰るようになっていた。  2人で共有する時間。それは逢坂と初めて食事に行った時のように楽しく、穏やかなものだった。  ただ、陣内の悩みが一切消えた訳ではなかった。 「君はキスが好きだね」  食器を洗い終わり、食器洗い機のスイッチを入れたところで、陣内は逢坂に唇を奪われる。  上唇を吸われ、陣内はシンクを背にして、ずるずると座り込む。時に、優しく吸われるのが、首を高く上げさせられ、噛むようなキスに変わる。  陣内は声を漏らした。 「ん……ふ……」  首が痛い。あと、陣内は心では逢坂を拒否している筈だった。しかし、逢坂の顔を見ると、どうしても拒否ができなかった。  逢坂の顔。その顔は…… 「汗かいてるよね? 薬を塗ってあげるから身体を洗ってきなさい」  薬とはこのマンションに連れてこられた時に腫れたアヌスに塗り込められた軟膏の事だ。今では、その傷は痛みを殆ど感じないようになっていた。  それでも、逢坂が薬を塗り続けていた。 「……っ」  浴室にザバッと大きな水音が響く。身体を預けていた湯船から出ると、陣内は立ちくらんでしまった。  だが、決して、湯あたりのせいではないだろう。  陣内はザッとシャワーを浴び、そのまま、風呂場を後にした。

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