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第35話
「悪いんだけど、もうつき合えない……」
陣内がつき合っていた彼女にそんな事を切り出したのは、もう随分、昔のような気がする。
確か、冬は終わっていたが、まだジャケットなんかを仕舞っていない頃だったから5ヶ月は経っていないだろう。
風の強い、強い日だった。
「そう……」
大きな風が吹くのが止み、彼女は承諾を口にした。どうして、と感情を現す事もなく、問い詰める事もなく、風のない中に静かに陣内の耳へ届いた。
「本当に悪い……」
その謝罪で陣内の言葉と彼女との恋は終わった。
別れた理由は何だったのだろうか。
つき合ってみたけど、性格や考え方、生活のリズムなんかが合わなかった。という訳ではなかった。それらを飛び越えて、彼女の事がただただ嫌いになった。という訳でもなかった。
好きかと問われれば、好きだった。と陣内は思う。
しかし、これ以上、好きになる事は辛かった。
「どうかしてる……」
陣内はかつて別れた彼女の事も逢坂の事も、全てを振り払おうと柚木に電話をかける。夕飯でも食って、柚木と実のない話をすれば良い。
そんな事を思うと、電話のアイコンを押し、柚木が電話をとるのを待つ。柚木はすぐに出た。
「ああ、柚木?」
「ああ、ジン? なんか、偶然! ちょうど僕もかけようと思ってたんだ」
柚木はあの大学でのアルバイトの時に食事に行こうって言ってたから、なんて言う。それと……
「話したい事もあるしね……」
柚木の言葉が途切れると一瞬だけ妙な静けさが生まれる。それから、二、三言、話し終え、陣内は柚木との通話を終了した。
「柚木が話か……」
スマホを操作する陣内の指が離れると、陣内はベッドに身体を預けた。
何だか、珍しかった。
大体は柚木がたわいもない話題を提供して、それに、一、二言、陣内が返す。話したい事がある、と切り出されるなんて思ってもなかった。
「まぁ、そんなに変わらないか」
元々、陣内は柚木を食事に誘おうとしていたし、話も気楽に聞けるものだと思っていた。
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