38 / 40
第38話
「最近、彼女とはどうなの?」
それは3ヶ月程、前の事だった。陣内はつきあっていた彼女と別れたばかりで、柚木にも話していなかった。
食べていたのは、バーガーだったか、牛丼だったか。
陣内はトレーの上にあるものを綺麗に平らげながら、別れた事とその理由を告げると、柚木はこんな事を口にした。
「もしかして、ジンはさ……恋愛すると苦しくなる人間なのかもね」
「苦しく?」
「ほら、よく人は恋愛すると、幸せだなって思ったり、楽しいなって思ったりするっていうじゃない? でも、その逆に辛くなったり、苦しくなったりする人もいる。そういう事だってあるんじゃないかって思う」
「……」
「人を好きになるのは決して難しい事じゃないけど、得意な人間ばかりとも限らない」
そんな台詞をさらっと言い、笑顔を向ける柚木。
今、思えば、どんな心境だったのだろうか。
用を終えたトレーを返却口へ持っていき、陣内と柚木は店を出た。まだ少し寒い日もあるが、日増しに暖かくなっていくのが分かった。陣内はもう少しすれば、バイクで走りたくなるだろうと思った。
そうしたら、何もかも忘れられる気がする。
誰かを好きになる事もやめられる気がしていた。
「俺にどうしろって言う?」
逢坂を好きになれば良いのか。
それとも、柚木を好きになれば良いのか。
あるいは、その2人ではない別の誰かを好きになれば良いのか。誰も好きにならなければ良いのか。
それは選択肢で、答えではなかった。
「もう構わないで欲しい……」
陣内は自分の口からそんな言葉を零れた気がした。いや、気がしただけで、心で思っただけかも知れない。
しかし、今の陣内にとってはどちらでも良い事だった。
ともだちにシェアしよう!