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港でも一、二を争う大網元の屋敷だった建物を、アルフリートは退職金で買い取った。 二階の半分を居住スペースと決め、一階には図書館や託児所、食堂、工房を構えた。 中庭に雲梯やハンモック等の遊具を置き、裏庭には野菜や果樹の畑を整備して。 ちいさなアレクにとって、新しい家は夢のような環境だった。 たくさんの子供と遊べる。 遊具で遊び、草むらで転げてまわり、おやつの果物を分け合った。 硝子窓の向こうで作られるチーズやベーコン。 もうひとつの工房では木の玩具や硝子細工が作られるのだ。 図書館の本も、幼児向けのものから大人が読む難しい本まで揃っていて、退屈する間がない。 「リィ…?」 「ん?」 リカルドは月に何度か泊まりでいない。 でも、ちっとも寂しくなかった。 アルフリートがいたから。 「だぁいすき!」 「僕もアレクが大好きだよ」 「うひゃ!」 鼻先で額をうりうりしてもらう。 猫族の親愛の証が嬉しくて、何度も何度もしてもらった。 今は亡き母のことを沢山教えてもらい、どれだけアレクが待ち望まれていたのかを知った。 村に住む祖父や祖母も、親戚の皆がアレクを愛していると。 子供達は皆に望まれて生まれてくるのだと。 「皆が特別。アレクも特別」 「とくべつ…?」 「とっても大事な宝物ってことだよ」 「うひゃ!」 鼻先でもう一度額をうりうりされる。 優しくて、物知りで、綺麗なアルフリート。 叔父と甥っ子というより母親と息子のような関係は、アレクにとって不思議で特別なもののような気がした。

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