14 / 26
・
斜向かいの建物にアレクは駆け込もうとしたのだが、ドアは開かなかった。
「え…」
診察はとうに終わっている。
裏口も施錠されていて、アレクは途方にくれた。
ヘタリとその場に座り込みかけ、思い直してすっくと立つ。
「ダメダメダメ!おいら、にいちゃんになるんだ!
こんなことじゃダメじゃないか!」
診察を終えた先生が足を向ける場所は限られている。
煮込みが美味い居酒屋か、まったり気ままに飲める角打ち。
あとは、薬草を仕入れに薬局あたりだ。
心当たりを当たりながら、近所のおばちゃんたちにも聞いて回る。
「えっ、アルフリートが?」
「いつもと違って、ぐあい悪いみたいなんだ!」
「ありゃ大変!わたしらも探すよ!」
「あんた!世話役さんに連絡しとくれ!
リカルドが帰ってくるまで入り口をかためてやらないと!」
「おう、任せとけ。
お前ら行くぞ!」
「おう!」
いつもは症状も軽そうにしていたが、具合が悪いとなれば話は別だ。
伴侶の定まっていない者の発情の場合、その発情香は伴侶のいない者を誰彼なく誘ってしまう。
アルフリートが誰を想っているかは分かっているが、肝心の相手が踏ん切れるか…。
「踏ん切ってもらわなきゃ、どうにもなんないな!」
「そうだね」
「いい子だよ、あの子は。
遠慮して隠してるだけじゃダメなんだよね」
「アレクはあたしが預かるよ。
うちの坊主と仲いいし、さ」
「リカルドが来たら、発破かけてやんなきゃ」
「うん!」
発破をかける前にやることは沢山ある。
若い者が迂闊に近づかないようにし、症状が楽になる薬湯を煮出す。
片手で摘まめそうな食べ物も用意しなければ。
大人たちは直ぐ様駆け出した。
ともだちにシェアしよう!