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その頃。
「え…?」
書類を片付けていたリカルドは、窓口に駆け込んできた人物の姿を見て驚いた。
白虎の上級文官は一人しかいない。
「さ、宰相さま…!?」
「話は後だ。
君はあの子の同居人だろう?
早く帰りなさい」
「え、ええ?」
「周期が大きく狂ったと言えば分かるか?」
「………っ!」
周期?
自分には今はなにもない。
「ア…ルの?」
「そう。
商店街の世話役から知らせが来たんだ。
暫く休暇が取れるようにしておく。
ちゃんと付き添いをしてやりなさい」
「………っ!」
手渡された包み。
袋の上からの手触りで薬だと分かる。
「とても強い抑制剤だから、町の薬局では出せない。
長く使えば、それだけ体にも障る。
出来れば、そろそろ服用を止めるべきものだよ」
いつも軽い風邪のようなものだと言っていた。
発情期でも、ニコニコしながらアレクの世話をして。
「………宰相さまは…。
なぜ、これを…俺に…?」
「何故と言われても、アルフリートの想いは…。
………ちょっと待ってくれ。
もしかして、気づいてないとか言わないだろうね」
「………?」
「確かに、一度は伴侶にと望んだことはある。
だが、どれだけ言っても受け入れては貰えていないよ」
「………え…?」
「……………ちゃんと話し合いなさい。
鼻が利かなくなる点鼻薬も入っているから」
「はっ、はい!」
弾かれたようにリカルドは駆け出した。
体に障る程の抑制剤と宰相は言っていた。
どれだけの期間服用していたのか。
少なくとも、リカルド親子を迎え入れてからだけでも四年間…。
三ヶ月に一度の発情期には服用していた筈。
いつも軽いのだと思い込み、時折眠る彼の唇や肌を啄んでいた。
きっと数日前のことが今回の発情を誘発したのは間違いない。
浅はかな自分に憤りすら覚えて。
それに、アルフリート自身の気持ちも確かめなければ!
大通りから街道を横切り、最短距離をリカルドは駆け抜けた。
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