7 / 306

小林と千尋1

半年後、俺は病院を退院して有栖川邸に移った。 「うおぉ、マジか」 ほんとにめちゃくちゃ豪邸! 雲の上のお金持ちだから、こんな突拍子もない手術を閃いたのか。 何度も「俺は山田太郎であんたの息子じゃない」と言ったが、それでも構わないらしい。 死んだ母親瓜二つの、この体が生きていることが最後の希望みたいで。 亡くなった奥さんのこと、ほんとに愛してたんだなぁ。こんな狂った真似をしてしまうくらいに。 もう二度と失いたくないという想いが強すぎて、有栖川父はめちゃくちゃ過保護だ。正直、息が詰まるけど。 リハビリの甲斐あって、日常生活は問題なく送れるようになった。 有栖川千尋の16歳という若い肉体と山田太郎も28歳と働き盛りの脳だったので、本当に奇跡のコラボレーションだったようだ。 問題なく生活できている。 そう、問題ない問題ない。 問題ない……。 ……だよな? 俺。 そんな感じで有栖川邸での生活に慣れた頃、こっそり俺は家を抜け出した。

ともだちにシェアしよう!