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小林と千尋1
半年後、俺は病院を退院して有栖川邸に移った。
「うおぉ、マジか」
ほんとにめちゃくちゃ豪邸!
雲の上のお金持ちだから、こんな突拍子もない手術を閃いたのか。
何度も「俺は山田太郎であんたの息子じゃない」と言ったが、それでも構わないらしい。
死んだ母親瓜二つの、この体が生きていることが最後の希望みたいで。
亡くなった奥さんのこと、ほんとに愛してたんだなぁ。こんな狂った真似をしてしまうくらいに。
もう二度と失いたくないという想いが強すぎて、有栖川父はめちゃくちゃ過保護だ。正直、息が詰まるけど。
リハビリの甲斐あって、日常生活は問題なく送れるようになった。
有栖川千尋の16歳という若い肉体と山田太郎も28歳と働き盛りの脳だったので、本当に奇跡のコラボレーションだったようだ。
問題なく生活できている。
そう、問題ない問題ない。
問題ない……。
……だよな? 俺。
そんな感じで有栖川邸での生活に慣れた頃、こっそり俺は家を抜け出した。
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