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千尋と男子校1

俺が「有栖川千尋」になってから一年。 千尋の体は17歳になっていた。(ちなみに山田は29歳になりました) 中学校をすっ飛ばして今日から俺は高校生になる。 はるか昔だけど、俺はとっくに中学校を卒業しているわけで。 ただ、勉強の方はそれほど得意だったわけでもないし、ほとんど忘れちゃってるので、一年かけて鬼家庭教師のスパルタ授業を受けさせられて、なんとか……なんとかなってるかな~? ……くらいには勉強できるようになった。(と、思う!) そんなこんなで、俺は三ヶ月遅れでピカピカの高校一年生として入学することになった。 全寮制の男子校、望応(みおう)学園に。 都会から離れた、少し隔離されたような山の中にある学校だ。 「……うわ~」 車の窓から見える学園の入り口に、俺は思わずまぬけな声を出してしまった。 だって山ん中の男子校で学生寮のイメージなんて、昭和っぽい木造校舎で割烹着のおばちゃんがご飯作ってくれる、なんというか、男臭いザ・男子校~って感じって勝手に思ってたんだけど。 でも実際はめっちゃ金持ちぃ~って感じ。 門とかハイテクだし、学生寮も高級マンションって感じで。 うわぁ。金持ちめって思ってたけど。 そういや俺も今、金持ちの子か。 ───慣れないなぁ。 俺は運転手さんにお礼を言って車を降りた。 荷物はすでに部屋に運ばれていたので、学生寮のエントランスから寮長の部屋を目指す。 まずは寮長に挨拶しようと思ったが、いないようだった。 まぁ、いっか。 それよりも挨拶のときに、うっかり山田太郎って言っちまわないよう気をつけなきゃ。 そのまま自分の部屋へ向かうことにした。 学生寮は二人部屋で、千尋の同室者は二年の風紀委員だという。 これは有栖川父のごり押しなのだが。 本当は同じ一年生同志で同室の予定だったのだが、ちょっとやんちゃな生徒だったみたいなんだよね。 で、二年の風紀委員の生徒の部屋に空きがある。 風紀委員=真面目! 二年=面倒見のいい先輩! 素敵! 抱いて!……じゃねぇよ! ただでさえ中身は29歳で十代の奴らの中に入ってくのビビんのに。 しかも、一人だけ三ヶ月遅れの入学で遅れをとっているのに。 これ以上浮くようなこと止めてくれ! どんだけ過保護なんだよ、だせーとか思われるから。 有栖川父、超やめて! と、お願いしてみたけど無駄だった。 本当は学校に行かせるのも嫌だったみたいだしなぁ。 ───ううう。気が重い。 先輩とはいえ、俺の方が人生経験は上なのですよ? まぁ、上司の太鼓持ちは得意だったので何とかなるか。 とりあえず深呼吸して部屋のドアを開ける。 「こ、こんにちはー。やま……じゃない、有栖川です」 奥から背の高い奴が出てきた。 おお。イケメンですね! 180超えてるかな。黒髪短髪のけっこうガタイの良い奴だ。 確かに真面目そうかなぁ。 「君が有栖川君か。俺は高槻章大(たかつき しょうた)だ」 「有栖川千尋です。父が無理をお願いして申し訳ありません。ご迷惑かもしれませんが、今日からよろしくお願いします」 俺は深々と頭を下げる。 高槻先輩はちょっと意外そうな顔でマジマジと俺を見た。 「意外とちゃんとしてるんだな」 「え?」 「いや、ちゃんと学園生活ができるように面倒をみるよう何度も言われてたから、きっと世間知らずな子が来るんだと思ってたんだ。悪いな」 「いや~。逆の立場なら俺もそう思いますよ」 「事故のこともちゃんと聞いているから、体調が悪いときは必ず俺に言えよ」 「ありがとうございます」 俺は事故で三年間意識不明で、奇跡的に目覚めて一年遅れで高校入学することになっていると伝えられていた。 「ほら、上がれよ」 「はい。お邪魔します」 お前の部屋でもあるんだぞ、と笑われた。 男らしい笑い顔だ。羨ましいぜ。 俺は一年間、体力回復の為のトレーニング+αをしてきた。うっすら筋肉は付いてきたけど、まだガリの部類だ。身長はどうにか170センチまで伸びた。 髪を短くしようとすると有栖川父が泣くので、髪型は耳が隠れるくらい長めにしかカットできてない。 軟弱少年ぽくて嫌なんだよなぁ。 山田太郎のときは183あったから、まだチビだ。 どうにか、どうにか高校生のうちに180センチ超えてくれ!    

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