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千尋と有栖川父1
初日の夜、風呂上がりに一息ついて、俺は小林にメールする。
〈無事、学生寮にいます。同室の先輩も良い人でよかった!〉
小林からすぐに返信がきた。
〈よかった。今日は疲れたでしょ。ゆっくり休んでね〉
あの日───俺が有栖川邸を抜け出して小林んちに行ったときに、小林の連絡先を貰っていたんだ。
ボロボロ泣いてた俺が余程気がかりだったのか、「何かあったら連絡しておいで」と、メモを渡された。
小林らしからぬ行動だけど、俺はめっちゃ嬉しかった。
山田太郎だった証と繋がっていられて。
それ以来、小林とはメールや電話のやり取りをしてる。
───抜け出した日、有栖川邸に戻ってから一波乱あったわけだけど。
黙っていなくなった俺に、有栖川父は……パニック状態だった。
また事故にあったら、と生きた心地がしなかったと。
さすがに俺が悪かったと、素直に反省した。
でも、俺だっていっぱいいっぱいだったんだよな。
で、俺はこの日から有栖川邸に軟禁状態になった。しかも、足首にGPS機能の輪っかをはめられて。
俺は海外の性犯罪者かよっ! どんだけ心配性なんだよ!
一歩も外に出られず、俺はもうノイローゼ寸前だった。
有栖川邸で有栖川父を見たら、キャンキャン吠えかかって、ちょっと険悪なムードになってしまってた。
そんなある夜のことだった。
自分の部屋で眠ってたら、なんか息苦しい。
というか、口が塞がってる。
───てゆうか、なんか、ヌルっと入ってきた!?
「……ッッ!?」
バチっと目を開けたら、男が俺に乗っかってるじゃねえか!
「んんッ!!」
つーか、これっ! キスされてんじゃねえの!?
必死で押し返そうとしても、この華奢な体は非力で、のしかかられた相手を退かせない。
舌が吸われ、ちゅっとやらしい音がした。
「……ふ、ぅ……んむぅ……!!」
───ちくしょッ!!
思いっ切りベロに噛み付いてやった。
相手が驚いて体を引いた隙に男を蹴って、俺はベッドから転げ落ちるように逃げた。
「このやろッ! てめぇ、なに……あ、有栖川父??」
ドアまで逃げて振り返れば、唖然とした有栖川父だった。
俺にキスしてたの、有栖川父!?
「……千尋っ! 違うんだ……」
「なにが違うんじゃ!! このど変態ヤロー!! 死ねッ!」
俺は咄嗟に机の上に置いてたスマホを持って、部屋を飛び出した。
とにかく必死に走って、有栖川邸の外へ脱出成功した。
パニック状態で走りながら、俺が唯一連絡できる相手に電話をかけた。
「小林!! 助けてくれっ!!」
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