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千尋と有栖川父[side 有栖川父]
[side 有栖川父]
千尋のことが心配すぎて、過干渉気味だとは分かっている。
だが、二度と失うわけにはいかない。
───体は千尋だが、中身は違う人間なんだが……
千尋は大人しい、物静かな子だった。
対して、今の千尋はよく笑い、よく喋る。
使用人にも「ありがとう」と、いつも礼を言うし、世間話もする。
植物状態から奇跡的に目覚めて、後遺症で記憶障害になり性格が変わったと伝えてあった。
使用人達は今の千尋に好意を持ち、あれやこれやと世話を焼き、気遣っていた。
私も「三年ぶりに目覚めた我が子が、ちょっと性格が変わったけど、愛しい我が子だ」と思うようになってきた。
あんな手術など無かったのだと。
まるで、現実逃避するみたいに。
そっと、寝室に入り千尋の寝顔を見つめる。
───ひどい親だとは、分かっている。
本当の千尋は……もういない。
でも、無邪気な顔で眠っているのは、間違いなく千尋だ。
妻にそっくりの顔をして。
最愛の妻だった。もう二度とあんなにも誰かを愛せないだろう。
だからこそ、妻と同じ顔をした忘れ形見である千尋を失う訳にはいかなかった。
……本当に、千幸 に似ている。
事故に合う前よりも、最愛の妻に似てきた。
「……千幸」
愛しい妻の名を呼び、気付けば無意識に、眠る千尋に口付けていた。
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