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胸の傷と接吻1

とにかく、めちゃくちゃに走って逃げた俺は、軽くパニックを起こして小林に電話していた。 小林は俺の居場所を聞いて、すぐに迎えに来てくれた。 パジャマのまんま、裸足で逃げてきてた俺を見て、さすがに驚いた顔をしたが、何も言わずに小林ん家に連れ帰ってくれた。 沈黙がありがたい。 今でも、小林は俺の駆け込み寺だった。 「そこ座って」 勝手知ったる小林の部屋のソファに座る。小林はお湯とタオルと救急箱を持ってきた。 「ちょっとしみるかも」 お湯を張った洗面器に、そっと足を浸す。 「……んっ」 裸足で全力疾走したから、足の裏を切ってたみたいだ。気付かなかった。 アドレナリンが出てたからかな。痛みを感じなかった。 小林は無言で、テキパキと手当てをする。 「ありがとう」 「どういたしまして」 山田のときと同じやり取りにホッとして、やっと肩の力が抜けた。 小林がお湯を流しに洗面所に行ってる間に、俺は勝手知ったる小林ん家の冷蔵庫からビールを取って─── 「何してるの?」 「!!」 小林に後ろから、ビールを持った手を握られた。 「ダメでしょ。未成年は」 ビールを取り上げた小林の目が、なんだか疑うような、訝しげな顔をして俺を見てる。 ───ですよね~。怪しいですよね~。 電話でつい「小林!」と呼び捨てにしちゃったし。今の行動は、まんま山田太郎だし。 小林は無言で、じっと俺を見ている。 ううう。この沈黙は辛い。 ───あ! アレだ!! 俺は閃いた。 奇跡体験アンバボーだっけ? テレビで見たんだ。 臓器移植を受けた少女が、提供者の記憶を一部受け継いでしまったとかいう実話があったんだ。 俺はパジャマのボタンをプチプチ外す。 「君、何して……っ!!」 小林は驚いて言葉を失った。 そりゃそうだ。 フェイクだけど、俺の胸には大きな手術の痕がある。 「俺、事故にあって移植手術を受けたんです。山田太郎さんの心臓を」 小林が信じられないものでも見たかのように、大きく目を見開いた。

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