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胸の傷と接吻2
「えっとですね。手術の後、夢でいろいろ見て。山田太郎さんの記憶を俺も覚えてるってゆうか……移植した臓器から、記憶も移るってゆう、あ~、こうゆうことって、たまにあるみたいで。だから、その、小林さんの顔も知ってたんです」
───どうかな? ぶっ飛びすぎかな?
小林がゆっくり近付いてきて、俺の胸のキズにそっと触れた。
「……山田?」
小林の指先は、小さく震えてた。
「……うん」
小林は跪いて、俺の胸に耳を寄せた。
まるで心音を聴くみたいに。
そっと、俺の……有栖川千尋の体を抱きしめて。
「山田…山田……」
「うん。うん……小林」
小林が泣いてる。
山田太郎のために。
俺は小林の広い肩を手で撫でた。有栖川千尋の手は細くて小さくて、頼りなく感じた。それでも俺は泣いてる小林の背中を撫で続けた。
小林は俺の胸のキズにそっと唇で触れた。その唇も小さく震えてた。
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