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千尋とお風呂と高槻先輩3
俺はのんびり風呂に浸かって、一日の疲れを解消した。
いいね。お風呂は。最高です。
長風呂のせいで、熱くなっちゃった。
風呂から上がった俺は、パンイチでリビングに出てった。
「千尋」
あ。高槻先輩、帰ってきてたんだ。
「千尋! 服を着なさい!!」
なんか、めっちゃ怒られた。しかも、お母さんみたいな怒り方で。
男同士だし、ちゃんとパンツ履いてるのに……あ!!
俺は自分の胸のキズを見る。
醜く引きつれた、けっこうグロい痕だ。
俺は咄嗟に先輩に背を向けて謝った。
こんなモン、誰だって見たくないよな。
てゆうか、一個しかない仏の顔、今ので消去しちゃってないよな?うわ~、やばいかなぁ。
「あっ…」
ゴニョゴニョしてたら、高槻先輩に腕を掴まれて、強引に振り向かされた。
「違うぞ! 千尋!」
その拍子にタオルが落ちる。手術痕がモロ見えだ。高槻先輩はそれを見て、少し辛そうな顔をした。
「……辛かったか?」
こっちはダミーの手術痕なんだけど。
「あ~……最初はリハビリとか、大変でしたけど。もう問題ないです。気にしないでください。すみません。お見苦しい」
怒ってないみたいで、ほっとした。
俺はヘラっと笑ってみせる。
「……見苦しくなんかない」
高槻先輩は、そっと俺の胸のキズに触れた。
え? ちょっと触らないでくださいよって思ったけど……なんというか、その手があんまりにも優しい触れ方をしたので、俺は何も言えなかった。
「先輩?」
恐る恐る見上げると、高槻先輩はハッとした顔をして、タオルを拾って俺の頭に被せた。
ワシャワシャ髪を拭かれる。高槻先輩、力強すぎだ。頭、ぐらんぐらんするわ!
「風邪ひくぞ」
「長風呂しちゃって熱いんですよ。あ。高槻先輩もお風呂入るとき、使っていいですよ。俺、入浴剤いっぱい持ってきたんで」
「だから、甘い匂いが……」
「ピーチです」
怒ってるというより、心配してるって感じだ。
風呂から出たら必ず部屋着を着る用に約束させられた。これが高槻ルールかな。
これから、一年間協同生活を送るんだから、気をつけよう!
一個しかない仏の顔を失いたくないからね。
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