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小林と千尋と公園3[side 小林]
[side 小林]
有栖川があの洋食屋のことを言ったとき、びっくりした。
大学の頃から、よく一緒に行った洋食屋だ。
そんなことまで記憶が引き継がれているんだろうか。
確かに世の中には不思議なこともある。
記憶転移。
臓器移植してから、人格や考え方が変わるという事例も幾つかある。
臓器から記憶を受け継ぐというが……有栖川は山田そのもののように行動し、話す。
……参ったな。さすがに混乱しそうだ。
その考えを読んだかのように有栖川が問いかけた。
「俺が山田さんっぽい言動するの、嫌じゃない?」
ああ……山田もこうゆうところがあったな。
能天気で天然だが、バカじゃない。ちゃんと相手のことを見て考えている。
大学時代から山田は道化の役割りを買って出ることが多かった。
飲み会で大人しい奴がウザい先輩に絡まれて酒を強要されているところに、おちゃらけて入っていって、さりげなくそいつを逃していた。
代わりに自分が呑まされたり、弄られたりしていたけど。
『バカのふり、やめたら?』
何がきっかけだったかは忘れたが、山田と二人になったとき、俺は思ったことを言った。
『バレたか』
山田はそう言って、にやりと笑った。
それからだ。なぜか山田に懐かれたんだった。
俺は無愛想だし、無意味な集まりは嫌いだ。
時間は有限だ。限られている。
不毛な付き合いの為に使いたくはない。
限られている時間は自分の好きなことに有効に使いたいと思う。
そんなんだから飲み会に誘われることも無くなったし、せいせいしていた。
だが山田は俺と連むようになり、俺の家を駆け込み寺にした。
一緒にいても必ずコミュニケーションを取っているわけじゃなくて、同じ空間でそれぞれ別の過ごし方をすることも多かった。
山田はそれを自然に受け入れていて、空気のように居心地がよかった。
有栖川も同じような空気を醸し出す。今は俺の気持ちをそっと伺っていた。
少し不安げな有栖川の表情を見て「そのままでいい」と答えた。
俺は自他共に認める「ちょっと変わり者」だ。
この「有栖川千尋」の皮を被った「山田」のような少年と過ごすのは好きだった。
だから、そのままを受け入れることにした。
有栖川がほっとしたように笑ったので、俺もつられて笑った。
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