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千尋とプロレスラー4[side 高槻]
[side 高槻]
千尋は映画を見て泣いていたらしい。
「すみません……ひっく……男なのに、恥ずかしい。うっ……」
必死に涙を堪えようとして手の甲で目を擦る千尋の手首を掴んで止めさせた。
そんなに擦ったら、赤くなってしまう。
「千尋、千尋」
千尋が顔をあげて泣き濡れた瞳で俺を見た。
黒曜石のような瞳が濡れて、潤んで綺麗だった。
唇を噛みしめ、少し眉尻を下げて、切なそうな表情をしている。
「いいから」
俺はたまらなくなって千尋の肩を抱き寄せて胸に抱いた。
「別に恥ずかしいことじゃない。映画を見て感動しただけだろう」
「……うっ……はい」
千尋はまだ少し泣いていた。
微かに震える体に胸が締め付けられるような感覚に陥る。
映画を見てこんなに泣くなんて……なんというか、素直で純真なんだな。
片手で千尋の頭を抱き、もう一方で背を抱き寄せた。
華奢な身体はすっぽりと腕の中に収まってしまう。
こうして千尋を抱き締めているのは何故だかひどく心地良かった。
「あの……先輩、もう大丈夫です」
「ああ」
……もう少しこうしていたい。
俺は名残惜しい気持ちを押し殺して、腕の力を緩めた。
千尋はまだ潤んだ瞳で照れ笑いで俺を見た。
不覚にもドキリとしてしまう。
「なんの映画を見てたんだ?」
ごまかすように聞いた。
「プロレス映画です」
「えっ?」
悲恋ものでも見て泣いていたのかと思ったら、プロレス映画で号泣してたのか。
……い、意外だ。
千尋があんまり熱く語るものだから、夕寝しすぎた俺は夜中にそのDVDを見た。
……不覚にも、俺も少し泣いてしまったのだった。
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