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涙痕と翻弄される男たち2
ちょっと冷やした程度ではやっぱり付け焼刃で、俺の目元は少し腫れぼったいままだ。
しょうがないかぁ。登校時間だ。
制服に着替えて高槻先輩とエレベーターに乗った。
一階に着いたときに、高槻先輩が忘れ物に気付いた。
「悪い千尋。エントランスで待っていてくれ」
「はぁい」
忘れ物を取りに帰った高槻先輩を待っていたら、ひらパー兄さんが出てきた。
「枚方さん。おはようございます」
「ざいます」
いつものゆるい挨拶で、ひらパー兄さんが近寄ってきて……
「!?……有栖川、なんかあったのか?」
「えっ?」
ひらパー兄さんが珍しく真剣な顔で俺の頬を両手で包んで顔を上げさせた。
「泣いた?」
親指で目元に触れられる。
「ああ。昨夜、映画見て泣いちゃって」
うわぁ。恥ずかしい。そんなに目立つかな。俺は照れ笑いの苦笑いだ。
「なんだ映画か~。高槻に何かされたのかと思っちゃったよ」
「?」
ひらパー兄さんはホッとした顔をした。
先輩の後輩いびりだとでも思ったのかな。高槻先輩はいびりなんてしないけど。
「なんの映画見たの?」
「プロレス映画です」
「えっ?」
ひらパー兄さんは俺の頬を包んだままだ。そろそろ離してくれないかな。
「あの、手を……うわっ!!」
言いかけて、物凄い勢いで後ろに引かれてビックリした。
「何してるんだ?」
高槻先輩だ。先輩は俺とひらパー兄さんの間に立ってめっちゃ低い声で言った。
なにこの迫力!? 怖ぇえ!
「有栖川が泣いたみたいだったから、心配してたんだよ。高槻になんかされたんじゃね~かって」
「あんたじゃあるまいし、俺が千尋を泣かせるわけないだろう」
「そおかな?」
何この空気!?
「行くぞ。千尋」
俺は高槻先輩に引きずられるようにして寮を出た。
「千尋。枚方には気をつけろと言っただろう。だいたいお前は無防備すぎると……」
学校までの道中、高槻仏陀のお説教タイムは続いたのだった。チーン。
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