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千尋と平野2
「この学園って、容姿だったり、家柄だったりが重要でしょ? 僕は普通の家庭だけど、この学園に入れるのが母親の夢だったんだ。受験合格して、望応学園に入学する事になった時、母さんすごく喜んじゃって。僕は地元の高校でよかったんだけどね」
「そうなんだ」
「だからランキングとか、親衛隊とか、そうゆうの苦手で。桜ノ宮くんに対しても、みんな最初から冷たい態度だったけど、僕は見た目で態度を変えるのって嫌だから、ふつうに接してたんだ」
やっぱりええ子や。平野。
「……でも、桜ノ宮くんが生徒会の方たちと親しくなって。おかしな空気になっちゃって」
平野の話によると、生徒会長の方から桜ノ宮に声をかけて、生徒会室に呼び出すようになったらしい。
「最初、ひとりだと心細いからって、僕についてきてほしいって頼まれたんだ。
でも、そんな必要ないくらい、いつのまにか桜ノ宮くんは生徒会の皆さんに気に入られていって……それでも桜ノ宮くんは必ず僕についてこさせるんだ」
「なにそれ。トイレに集団で行く女子みたい」
「……ほんとにね」
平野は重いため息をついた。
「なんで桜ノ宮くんがあんなに生徒会から気に入られてるかは、僕にも分からない。だから、親衛隊のみんなにはもっと理解できないんだ。最近では、桜ノ宮くんにべったりで、生徒会の仕事もさぼりがちになったり、授業までさぼったりしてるし。生徒会長は……セ……」
ここで平野がどもった。
「せ?」
「……セフレを、生徒会室に連れ込んでるって噂だよ」
「はぁ!? どこの高校生だよ!? AVじゃあるまいし」
「AV……」
ヒクわ。なんなんだ。ここの生徒会は。
平野が顔を赤くしている。AVってフレーズで赤くなるとは、ピュアよのう。
俺はますます平野を何とかしてやりたくなる。
「桜ノ宮と生徒会長って、おホモだちなの?」
この学園風に聞いてみた。
「そんな風には見えないけど。うまく説明できないけど、なにか……変な感じなんだ。あの俺様生徒会長が桜ノ宮くんには頭が上がらいってゆうか、なんでもわがまま聞いちゃう感じ」
「あ~。俺様って感じの顔してるな」
俺は今日の出来事を話した。
生徒会長をエレベーターに挟んだくだりで平野が噴出した。
「あ、有栖川くん……うっ!」
ぷるぷる震えて、笑うのを我慢したいようだが、平野が噴出した。
高校生なんだから、無邪気に笑ってる方がいいって。
「みんなには内緒な」
「話す相手なんかいないよ」
少し寂しそうに言う。
「それで親衛隊が平野のこと、いじめてるって?」
「いじめってゆうか、上履き捨てられたり、水をかけられたり、机にごみを入れられたりするくらいだよ」
「いやいや。それ、立派にいじめだから」
「ほんとの制裁はもっとひどいらしいし。桜ノ宮くんがみんなの前で、僕が生徒会の皆さんと仲良くなりたがってる、僕が桜ノ宮くんに生徒会長に会わせてって頼んでくるって言うんだ。だから、親衛隊に目を付けられちゃって……」
「なんだよ、それ」
「確かに、僕も生徒会室について行ってたから悪いんだけど。でも、僕はそんなこと言ってないし、誤解が解ければ、きっと嫌がらせもなくなると思うんだ」
そう言って、平野は力なく笑った。
……本当にそうだろうか?
園田や美村から聞く限り、この学園は独特のルールがある。
そう単純じゃない気もするけど……
それに、俺は桜ノ宮って奴を知らないから何とも言えない。
「平野はどうしたい?」
「え?」
「なんにもせず我慢してすごすのか?」
「……」
「どう考えても、いじめだろ? 親衛隊だかなんだか知らないけど。発狂したアイドルヲタだろ? 普通じゃないぜ。平野いっこも悪くないじゃん」
ハッとした顔で平野が俺を見た。
「悪くない?」
「当たり前だろ。桜ノ宮って奴のことは会ったことないから、正直分からない。生徒会連中もね。でも親衛隊の奴らがやってることは、八つ当たりだし、幼稚ないじめだ。それを見て見ぬふりしてるのもおかしい。間違ってる」
「そんなこと……言われたの初めてだよ……」
俺は机の上に置かれた平野の手を握る。
「……っ!」
「平野。平野がつらいなら、力になるから。俺、正直この学園のルールとか分からないんだよ。だから余計な真似だって言うなら言ってくれ。でも、このままが嫌なら、どうにかしたいなら、一緒に考えるから」
「有栖川くん」
平野がぽろっと涙を零した。
「ありがとう」
ぐいっと涙をぬぐって、俺をまっすぐに見た。
「このままじゃ、嫌だ」
「分かった」
平野が俺の手を握り返した。
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