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千尋と「山田、タイキックー!」3
今のはアレだ。
\デデーン/
『山田。タイキック~!』
チャ~ラリ~ラ~ラリ~♪
(微妙に踊りながらタイ人登場)
すかさず尻にタイキック。
ズパァア─────ン!!
『ぎゃー!!』
ってゆう、あの一連の流れだ!
年末のお笑い特番の!
ヤンチャな生徒は尻の痛みに震えて蹲ってる。
うわぁ。これもテレビのまんまだ!
「まったく………!?」
呆れ顔の高槻先輩がこっちを見て固まった。
「ち、千尋!」
「高槻先輩!」
高槻先輩が焦った様子で俺の元に駆け寄った。
俺の両隣の美村と園田は空気になってる。
「千尋! あの生徒はだな。隠れてタバコを吸っていて、逃げたから仕方なく………決して暴力賛成なんかじゃないから………千尋?」
「………高槻先輩。超かっこいい!」
「えっ?」
俺は尊敬の眼差しで高槻先輩を見た。
これはアレだ。
フランケンシュタイナーを見たとき以来の衝撃だ。それくらい見事なタイキックだった。
「高槻先輩、タイキックできるんですか?」
「いや………キックボクシングじゃなくて、ムエタイだ」
「ムエタイ?」
「タイの格闘技で………いや、決して俺は暴力肯定派じゃないからな。今のは」
「あっ。先輩、あいつ逃げますよ」
「何!?」
ヨタヨタと立ち上がった生徒の首根っこを高槻先輩が引っつかんだ。
「お前は風紀室まで来い! 千尋。今夜ちゃんと話そう」
それだけ言って、高槻先輩はヤンチャな生徒を引きずって行った。
俺の両隣で空気になっていた美村と園田が息を吹き返した。
「かっけぇ~。高槻先輩すごいな!」
「有栖川くん。怖くないの?」
「何が? あっ。園田、ムエタイって何?」
「え~と。タイかなんかのキックボクシングかなんかみたいな格闘技かなんかだと思う」
今日の園田は「~かなんかが多すぎて役に立たない。
お! こんなときは………
俺はスマホを出した。
『小林。ムエタイって知ってる?』
歩く雑学辞典・小林にメールした。
夜には、ムエタイについての長文メールが返信されているはずだ。
「よし」
くっくっと笑う声が聞こえて顔を上げると、美村が俺を見て笑っていた。
「やっぱ、い~わ。アリスちゃん。面白い」
「?」
俺、何かした?
そんな俺と美村を見て、園田が目をキラキラさせていたが、無視をした。
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