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千尋とウォーキング4[side ナウシカ(?)]
[side ナウシカ(?)]
この日も朝早くに寮を出て、森を歩いた。
俺は昔から人と関わるのが苦手だった。
人の感情に敏感で、人混みなんか耐えられない。
イライラした奴の側にいると頭が割れそうに痛くなるし、欲望を向けられると吐き気がする。
どうかそっとしておいてほしい………そう願うのに、周りは放っておいてくれない。
クォーターの為に顔立ちは日本人離れをしていて、瞳の色は色素が薄く金に近い茶色だ。本当は髪の色も薄いけど、黒く染めている。
こんな容姿をしているから、嫌でも注目されてしまう。
この学園に入ったのも隔離された空間だからだ。
なのに抱かれたいランキングなんかに名を連ねられて………。
生徒会役員になったのは、一般生徒から距離を取れるし、生徒会限定のフロアで1人部屋になれるから。
親衛隊なんていうオマケ付きだけど。
『君はエンパスだね』
『エンパス?』
『共感能力が高いんだよ。辛かったでしょう』
俺はぼんやりと桜ノ宮桜真の言葉を思い出していた。
桜真は不思議だ。
感情の起伏が少ない。
まるで真冬の湖に張った薄い氷のよう。冷たく、静かに俺を見る。
桜真の側にいると、その冷たさに落ち着いた。桜真も『人嫌い』だと思う。
俺はいつもの場所に着いた。
すると、カサカサと木から滑り降りてきたリスが俺の肩に飛び乗った。
動物は好き。
感情がシンプルで。起きて、食べて、眠る。それだけ。
「あ!」
背後から聞こえた声に驚いて振り返ると、随分キレイな顔をした生徒が立っていた。
ああ、俺の秘密の場所だったのに。
生徒会の奴らにも、親衛隊にも教えていないのに、バレてしまった。
けれど、その子は指先を口元に当てて、そっと後ろに下がった。
秘密にしておいてくれるの?
その子はリスの食事風景をニコニコして見ていたが、ぺこりと頭を下げて歩き去った。
一言も話さずに。
見た事の無い生徒だ。とても………
穏やかで、明るく優しい空気をまとっていた。
俺はいつまでも、その子が歩き去った方を見ていた。
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