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千尋とナウシカ兄さんと高槻先輩4
「や、だっ!離せっ!」
高槻先輩の体がぴったりと密着してきた。
「守られる必要は無いんだろう。自分で逃げてみせろ」
「このっ!!」
俺は必死でもがくが、高槻先輩はビクともしない。
スウェット越しに高槻先輩の鍛えられた胸板とか腹筋の硬さを感じる。
俺とは全然違う。
この有栖川千尋の肉体とは。
俺は悔しくなって、唇を噛んだ。
「千尋。お前は非力だ」
その言葉にビクリとしてしまう。
「俺一人でも簡単に押さえこめる。これが複数だとどうなる? お前の力ではどうすることもできないんだぞ」
「………そんなの」
知らず声が震えた。
俺だって好きでこの体になったんじゃない。
トンデモ手術は意識の無いうちに行われていた。
目覚めた時、俺の本当の体はとっくに火葬されていた。
俺は親とも兄弟とも会わないまま、山田太郎の葬式は終わり、皆とのお別れは済んでいた。
望んだわけじゃない。
だけど、いじけて腐っていたって無意味じゃないか。本物の有栖川千尋が浮かばれない。
そう思って前向きにやってるのに……。
悔しいやら、情け無いやらで……
いかん。泣けてきた。
「!!」
気付いた高槻先輩が拘束を解いた。
「どうせ……どうせ非力だよ! でも好きでこうなったんじゃない!」
ポロっと涙が零れた。
ああ、情けない。泣いちまった。
「千尋!」
高槻先輩がぎゅっと俺を抱き締めてきた。
「やだって、離せってば!」
高槻先輩の腕の中でもがくが、力では叶わず逃げられない。
「悪かった。だが分かってくれ。お前が心配なだけだ」
そう言って、高槻先輩は強く俺を抱き締めた。
涙腺がバカになったのか、目から涙がポロポロ零れた。
「………俺じゃない………こんなの俺じゃない」
腕の中から離してくれないから、高槻先輩のスウェットを掴んで、縋るようにして泣いた。
「俺にお前を守らせてくれ。千尋」
子供みたいに泣いてる俺を抱き締めながら、高槻先輩が真摯な声で告げた。
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