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千尋とナウシカ兄さんと絆創膏4[side 南方]
[side 南方視点]
「ナウシカ兄さん?」
有栖川千尋にそう呼ばれて。ちょっとびっくりしたけど、少しホッとした。
俺のこと知らないんだ。この子は。
ナウシカみたいって………ちょっと笑ってしまう。
さっきはすごく辛そうな顔をしていた。首筋のキスマークを見たときは、密かに動揺した。
千尋から伝わってくるのは、「悔しい」と「怖い」って感情だ。
この子にそんなの似合わないのに。
俺が甘いお菓子を膝に乗せたら、ニコっと笑った。
俺もつられて笑う。うん。この子は笑った方がいい。
「れん」
「え?」
「蓮でいいよ」
「蓮先輩?」
「ただの蓮でいい」
「ありがとう。蓮」
穏やかな時間が流れた。他人と一緒にいるのは好きじゃないけど、千尋といると心地がいい。
桜真とも違う。
桜真は冬の静かな夜の心地良さだ。
重くなってしまう思考をクリアにしてくれる。
千尋は春の陽だまりの穏やかさだ。笑うと初夏の風のように、心の曇りを流してくれる。
「あ!」
千尋がポケットから出したスマホを見た。着信があったみたいだ。
「俺、行かなくちゃ」
少し寂しく感じる。もう少し、一緒にいたい。
「………また」
「うん。あ、俺。朝のウォーキング行けなくなっちゃって」
「え……」
「でも、リス見たいから。時々こっそり行くね」
千尋はふわっと笑った。
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