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千尋と駆け込み寺4
小林は立ち上がって、キッチンへ行った。電子レンジの音がして、戻ってきた時には蒸しタオルと輪切りのレモンを入れた小皿を手にしていた。
で、ほかほかの蒸しタオルを俺の首に当てた。
「あつっ」
「大丈夫?」
「大丈夫~」
蒸しタオルで温めたあと、レモンの輪切りをキスマークのとこに当てて言った。
「しばらく当てとけば薄くなるよ」
「レモンで?」
「そう。本当は馬油が効くらしいけど、さすがに無いからね」
ほんとに、無駄になんでも知ってるなぁ。小林は。
「君、ホモに狙われてるわけじゃないと思うよ」
「えっ?」
「本当のゲイにモテるタイプは、だいたいがガチムチな男らしい男だ。君の場合、華奢で中性的だから、女の子がいない閉鎖された空間で思春期の男子が惑わされてるだけだよ」
「ああ……うん。うん?」
待て。小林。
今、しれっと俺をディスらなかったか!?
俺は華奢で男らしくなくて、女の子の代わりに見られてるってことか?
「背が伸びて、声変わりでもすればホモに追いかけられることもなくなるんじゃない? 気にする必要ないよ」
「そっかぁ」
なんか微妙だけど。なんだろう。ちょっとホッとした気がする。
小林効果か。さすが俺の駆け込み寺だ。小林。
「しばらくそうしといて」
そう言って小林はキッチンで晩ご飯の準備をする。
「今日なに?」
「バターチキンカレー」
「おお! ナンも焼く?」
「今日はサフランライス」
久々に小林のカレーだ。嬉しくなる。
ぶっちゃけ小林は料理が上手い。俺も一時期、自炊に凝ってたときがある。よく小林からアドバイスを貰ってた。
当時付き合ってた可愛いギャル系の彼女にブランドもののバッグやらねだられてた俺は、節約の為に弁当男子だった。
小林ほどじゃないけど、そこそこ料理してたんだ。
結局、浮気されて別れたけど。
小林んちのテレビは再生専用で地上波は映らない。退屈になってきて、俺はキッチンへ行く。
晩飯を作る小林の後ろで勝手にウダウダ喋ってた。
「園田ってのが腐男子で、腐男子センサーが働いてるときは目がキラキラしてるんだけど、いっつも無視してる」
「そう」
「美村はチャラ男なんだけど。根っこは真面目なんだと思うんだ」
「うん」
小林は聞いてんのか聞いてないんだか分からない返事をしてるが、気にせず喋り続けた。
「同室の高槻先輩はムエタイやってて………」
「ムエタイ?」
おっ! 食いついた。
「うん。マッハのDVD持ってたから見せてもらった」
「主演のトニー・ジャーが『マッハ』の最新作に出てたけど、まぁ、あれは正確には『トム・ヤム・クン』の続編なわけだけど。彼の映画の見所は体を張ったムエタイ・アクションだ。なのに『マッハ無限大』ではCGを使っていて、少しがっかりしたよ」
おっと。スイッチが入ってしまった。
「小林、漫画読まして」
「いいよ」
話をぶつ切りにしたけど、小林はそんなこと気にしない。
俺はレモンを当てた首をラップで巻いて手を洗った。小林の趣味部屋で漫画を物色する。
小林んちは2LDKだ。一部屋は漫画や服や靴やフィギュア(主にアメコミやスターウォーズ系)が置いてある趣味部屋だ。
「あ」
俺は手塚治虫の『きりひと讃歌』を手に取る。これ、いっつも途中で寝ちゃったりして最後まで読んだ記憶が無いんだ。
俺は手塚治虫を持って、ベッドに上がり、壁にもたれて最初から読み始めた。
途中で晩飯になって、また最後までは読めなかったけど。
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