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小林と山田3[side 小林]
[side 小林]
あの夜。
山田が死んだ夜。
どうして俺は山田を帰らせたんだろう。あの夜が最後になるなんて思いもしなかった。
いつも通り、ヘラっと笑って「明日、会社だし」と、ほろ酔いの山田は帰ってった。
あれが生きている山田を見た最後の顔だった。
遺体安置室で見た山田の遺体は、損傷が激しくてシーツで覆われていた。
僅かに見せられた顔だけで確認した。
顔はほとんど傷が無くて、寝てるみたいだった。
「びっくりした?」と、今にも起き上がりそうだった。
だが、山田が目覚めることも、時間が巻き戻ることも無くて。
山田はあっけなく死んだ。
俺は有栖川の腹に頭を乗せたまま、ポツリと呟いた。
「………ごめん」
あの夜、引きとめればよかった。
「ごめんな。山田」
あの夜、もっとちゃんと話せばよかった。
ビールなんか、飲ませなければよかった。
山田の家まで送ればよかった。
タクシーに乗せて帰らせればよかった。
「ごめん」
帰らせなければよかった。
うちに泊めればよかった。
山田が気に入ってたこのベッドで寝かせてやればよかった。
「山田。ごめん」
ぽふっと、有栖川の手が俺の頭を撫でた。
「………ん……も~いいよ………」
むにゃむにゃと寝言混じりに言った。
「今度、キーマカレーつくって………それで……チャラね」
有栖川は細い手で、俺の髪をくしゃくしゃにした。
「………」
そのまま俺の頭に手を置いたまま、有栖川の穏やかな寝息が聞こえた。
俺は、少し泣いた。
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