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千尋とカルボナーラ4
シャワーを浴びて、髪を乾かす。
おお! 乾くの早っ。
もうすぐ8月だし、ちょうどいいや。
鏡を見れば、キスマークもほとんど消えてる。いろいろと流石だ。小林。
部屋に戻ると小林がソファに座って本を読んでた。
「なに読んでんの?」
「仏教の本」
「ふ~ん」
また濃いの読んでんな。
俺は冷蔵庫からミネラルウォーターを出して飲んだ。
ベッドにゴロンと寝転んで、手塚治虫を読む。昨日の続きだ。
でも結局、またうたた寝しちゃって最後まで読めなかった。
明日も学校だし、4時すぎには小林んちを出た。なんか、あっとゆうまだったなぁ。
小林にバス乗り場まで送ってもらった。
「また泊まりに来てもいい?」
「いいよ」
やっぱり小林は今でも俺の駆け込み寺だ。なんかすげぇリラックスできた。
あ。もうバスが来てる。運転手の山田さんが俺を見て、ぺこりと頭を下げた。
「ありがと。小林。またね」
「うん。また」
俺はバスの方へ歩いた。乗り込む前に、なんとなく振り返ると、小林が泣き笑いのような表情でこっちを見てた。
「………」
小林のあんな顔、見たことない。
「千尋くん? 乗らないの?」
俺は走って小林のもとに戻った。
「………えっ?」
「これ、預かってて」
羽織ってたパーカーを脱いで、小林に押し付けた。
「今度、絶対取りに行くから。小林が持ってて」
小林が驚いた顔してる。自分でも何言ってんだって思うけど、咄嗟に行動してた。
「分かった。約束ね」
「おう」
俺がニカッと笑うと、小林も笑った。
それからバスに乗って、一番後ろの席に座った。小林はずっとバス乗り場に立って、こっちを見てた。
俺も見えなくなるまで、ずっと小林を見てた。
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