173 / 306
瀧山と親衛隊2[side 瀧山]
「瀧山さま」
艶やかな黒髪と少しキツめの大きな瞳。細いが華奢ではなく、無駄の無い体つきのしなやかな黒猫を連想させる少年だ。
「お入り。楓」
西京極 楓(にしきょうごく かえで)。僕の親衛隊の隊長だ。
「失礼します」
部屋に入ってきた楓は、僅かにだがセックスの残り香に気付いて眉を顰めた。
「ああ。さっきまであの子が来ていたんだ。ええと、倉………」
「倉橋ですか」
「そう」
楓の猫のような瞳に嫉妬が宿る。
「いい子だけど、少し勘違いをさせてしまったかもしれない」
「………よく言い聞かせておきます。」
楓が抑えた声で言った。言い聞かせる、ね。
今日、倉橋の内腿に薄くなってはいたが、幾つかのアザを見つけた。気付かないフリをしたけど。
見えない場所に、バレない程度の『制裁』をする。楓は顔に似合わず陰湿だ。そこが気に入っている。
「おいで。楓」
僕は両腕を広げて、楓を呼んだ。楓は嬉しそうに駆け寄り、僕に抱きついた。
「楓が一番可愛い。他の子達は、ただのはけ口だ」
「………瀧山さま」
僕は楓に髪を梳きながら、優しく囁く。
「僕も好きです。瀧山さまになら何をされても………!」
「ダメだよ。本当に好きな相手には手が出せないんだよ。だから、楓とはセックスできない」
楓は切なげな顔で僕を見る。
「大事だからだよ。楓」
「はい」
しばらく楓を抱き締め、優しく髪を撫でた。
「倉橋はいい子だけど、僕のプライベートに踏み込んできて、少し疲れてしまう。君から言い聞かせておいてくれる?」
「はい」
「少しキツく言い聞かせて構わない」
「分かりました」
さあ、何をしてくれるかな。この嫉妬深い子猫は。
倉橋は倉橋で、僕に愛されていると勘違いをしている。僕に迷惑をかけない為に、僕に嫌われたくない一心で『制裁』に耐えるだろう。
………少しだけ残酷なことを。
桜真の言葉を思い出し、僕はうっすらと微笑を浮かべた。
腕を解き、楓の額にそっとキスをして送り出した。
喉が渇いた。
玄関からリビングに戻って冷蔵庫を開けたが、ミネラルウォーターを切らせていた。楓に買ってこさせればよかった。
今更呼び戻すのも面倒なので、僕は水を買いに部屋を出た。
ともだちにシェアしよう!