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瀧山と親衛隊2[side 瀧山]

「瀧山さま」 艶やかな黒髪と少しキツめの大きな瞳。細いが華奢ではなく、無駄の無い体つきのしなやかな黒猫を連想させる少年だ。 「お入り。楓」 西京極 楓(にしきょうごく かえで)。僕の親衛隊の隊長だ。 「失礼します」 部屋に入ってきた楓は、僅かにだがセックスの残り香に気付いて眉を顰めた。 「ああ。さっきまであの子が来ていたんだ。ええと、倉………」 「倉橋ですか」 「そう」 楓の猫のような瞳に嫉妬が宿る。 「いい子だけど、少し勘違いをさせてしまったかもしれない」 「………よく言い聞かせておきます。」 楓が抑えた声で言った。言い聞かせる、ね。 今日、倉橋の内腿に薄くなってはいたが、幾つかのアザを見つけた。気付かないフリをしたけど。 見えない場所に、バレない程度の『制裁』をする。楓は顔に似合わず陰湿だ。そこが気に入っている。 「おいで。楓」 僕は両腕を広げて、楓を呼んだ。楓は嬉しそうに駆け寄り、僕に抱きついた。 「楓が一番可愛い。他の子達は、ただのはけ口だ」 「………瀧山さま」 僕は楓に髪を梳きながら、優しく囁く。 「僕も好きです。瀧山さまになら何をされても………!」 「ダメだよ。本当に好きな相手には手が出せないんだよ。だから、楓とはセックスできない」 楓は切なげな顔で僕を見る。 「大事だからだよ。楓」 「はい」 しばらく楓を抱き締め、優しく髪を撫でた。 「倉橋はいい子だけど、僕のプライベートに踏み込んできて、少し疲れてしまう。君から言い聞かせておいてくれる?」 「はい」 「少しキツく言い聞かせて構わない」 「分かりました」 さあ、何をしてくれるかな。この嫉妬深い子猫は。 倉橋は倉橋で、僕に愛されていると勘違いをしている。僕に迷惑をかけない為に、僕に嫌われたくない一心で『制裁』に耐えるだろう。 ………少しだけ残酷なことを。 桜真の言葉を思い出し、僕はうっすらと微笑を浮かべた。 腕を解き、楓の額にそっとキスをして送り出した。 喉が渇いた。 玄関からリビングに戻って冷蔵庫を開けたが、ミネラルウォーターを切らせていた。楓に買ってこさせればよかった。 今更呼び戻すのも面倒なので、僕は水を買いに部屋を出た。

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