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千尋と章太2
翌朝。
高槻先輩はいつもより早く起きて、一人で登校していった。
委員長が来た時にはもう居なかった。
「おいおい。また痴話喧嘩か?」
「違いますよ! てゆうか、委員長! あんた昨日はよくも………」
委員長は、ハハッと笑って
「消毒だ消毒。逆に感謝しろ」
悪びれずに言った。俺はがくりと肩を落とした。
ダメだ。こいつ。
「で? 何があったんだ?」
委員長がコーヒーを飲みながら聞いてきた。
「なるほどなぁ。あの高槻がねぇ」
委員長がしみじみと言った。
「………なんで怒ってんのか分かんないんですよ」
「怒ってんじゃねぇよ。ヤキモチだ」
「えっ?」
委員長がニヤニヤしながら言った。
「お前、書記のことを下の名前で呼んだんだろ。高槻も呼んで欲しいんだろうな」
「えっ? そんなことで?」
「名前くらい呼んでやりゃあいいのに」
「いやでも、高槻先輩は高槻先輩だし………名前を呼ぶのって、そんなに重要ですか?」
よく分からん。先輩は先輩だろ?
うーんと考えこんでる俺の顎を委員長がクイっと持ち上げた。
「?」
鼻先が触れ合うくらい顔を近付けて
「千尋」
俺の目を見つめながら、低い囁き声で俺を呼んだ。
「なっ………!?」
俺は真っ赤になっちまった。
委員長は手を離して、ハハハと笑った。
「違うだろ。名前で呼ばれると」
委員長は俺のこと、いっつもふざけて姫って呼ぶ。急に真顔で「千尋」って呼ばれて俺はドギマギした。
「ふっ、ふざけんなよ!」
「照れてんのか。可愛いな、千尋は」
委員長はニヤニヤしながら、俺を見た。もう最悪。ダメだ、こいつ。
「帰ってきたら、章大先輩って言ってやれって。喜ぶから」
「だって………なんか、恥ずかしいし」
高槻先輩を章大先輩って呼ぶのは妙に照れてしまう。なんでだ。
そんな俺を見て、「可愛いなあ。姫は」と、委員長はくしゃっと頭を撫でた。
「『おかえりなさい。章大先輩』って言って、出迎えりゃ仲直りできるさ。裸エプロンとかで」
「何言ってんだ、あんた。アホか」
裸エプロンは男のロマンだ云々言ってる委員長を無視して、俺は考えた。
エプロン………あ!
俺はあることを思いついたのだった。
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