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千尋とエプロン2[side 高槻]
[side 高槻]
今日は一度も千尋と顔を合わせていなかった。放課後も委員長が千尋を送って行った。
子供じみているとは思う。
千尋が南方を下の名前で呼んでいる事に嫉妬した。俺の方が千尋を知っている。ずっと近くにいると思っていたのに。
千尋が南方を庇ったのも気に入らなかった。
………でも千尋が悪い訳じゃない。
俺はコンビニで、オレオとプリングルスとブラックサンダー全種類を買って帰った。確か千尋が好きなチョコだ。
寮の部屋に入ると良い匂いがした。
「?」
靴を脱いで、キッチンへ行くと、
「千尋?」
「あ。高槻先輩、おかえりなさい」
千尋がキッチンに立っていた。
「早かったですね。もうちょっとでできるんで。あっ。ご飯食べてきてないですよね?」
「あ、ああ」
俺はハッとする。
放課後、委員長がしきりに「飯食わずに帰れ」「いいなぁ。俺も嫁が欲しい」「裸エプロンが見たい」と、謎発言をしていた。
俺はマジマジと千尋を見た。
千尋は紺のシンプルなエプロンをしている。少し普段と違う感じがして、目が離せなくなってしまう。
「高槻先輩。手洗ってきて。ついでに着替えたら?」
「わ、分かった」
俺は手を洗って、自室で部屋着に着替える。
部屋を出ると、千尋がダイニングテーブルに料理を並べていた。
ご飯、味噌汁、ほうれん草の卵とじ、キャベツの千切りと豚生姜焼きだ。
「千尋、これ………」
「今日は俺作ったんで、一緒に食べましょう。え~っと………」
千尋は「え~っと、う~んっと」とモニョモニョ言ってる。
「?」
「しょ、章大先輩」
「ッ!?」
千尋は真っ赤になって俺を見上げた。
「あ~! やっぱなんか照れる! なんでだろ? これで勘弁してくんない?」
その照れた顔がめちゃくちゃ可愛かった。
「わぁ!」
俺はたまらなくなって、思わず千尋を抱きしめる。千尋の体はぴったりと俺の腕の中に納まった。
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