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千尋とエプロン3[side 高槻]
意固地になっていた気持ちが溶けていく。
「高槻先輩でいいよ」
「ほんと? よかった。なんか照れくさくて」
千尋がえへへと笑って言った。
「じゃあ元どおりですね」
「ああ」
俺は腕を解き、千尋にコンビニ袋を差し出す。
「あ! ブラックサンダー全種類あるじゃないですか」
千尋が嬉しそうに笑った。
「食後のおやつにしよう」と、お菓子置き場に持っていった。
「ほら、座って。お腹空いたでしょ」
「いただきます」
「めっちゃ普通だけど、どうぞ」
千尋は謙遜して言うけど、めちゃくちゃ美味かった。
「すごく美味しいよ。俺、豚生姜焼き好きなんだ」
「知ってる」
「え?」
「だって高槻先輩、お弁当買ってくるとき、しょっちゅう豚生姜焼きにするじゃないですか。食べてるときも嬉しそうだし」
俺はちょっと恥ずかしくなる。そんなに顔に出てるのか?
「そ、そうか?」
「よく見てるでしょ」
千尋はニコッと笑った。その無邪気な笑顔ドキリとしてしまう。
………参ったな。
千尋にはかなわない。
「千尋が作ってくれた豚生姜焼きが一番美味しいよ」
「そ、そっすか」
「また作ってくれ」
「いいですよ」
俺も千尋を見て笑った。
一緒に晩ご飯を食べた後、洗い物は俺がすると言って、千尋をリビングのソファに座らせた。
コーヒーを入れて、ブラックサンダーを一緒に食べた。テレビでお笑い番組を見て、「バカバカしいな」と、二人して笑った。
なんとも言えない、穏やかな気持ちになる。
千尋は不思議だ。
なんて事のない、普通の過ごし方をしているのに、一緒にいるといつも胸の内が幸せな感覚で満たされてしまう。
委員長から『裸エプロンどうだった?』と、メールがきていた。
『裸じゃないです。でも最高に美味しかったです』と返信しておいた。
だがその夜、夢の中で、裸エプロンの千尋が出てきた。
翌朝、俺は千尋の顔をまともに見れなかった。
………くそっ。委員長のせいだ!
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