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桜ノ宮桜真と水曜日の夜3[side 桜ノ宮]
[side 桜ノ宮]
随分、有栖川千尋に懐いたもんだ。千里も興味を持っているし、正宗も………。
「………」
蓮の部屋を出てエレベーターに乗り、手に持った新聞に視線を移す。
ひと月前か………。保健室で会った少年だ。あの時よりも髪が短くなって、もっと美少年らしくなっている。
あの日、授業をサボって保健室に行き、鬱陶しい鬘とメガネを取った。
伊丹はいつだって保健室にいないので、少し息抜きをしようと思ったら先客がいた。
随分綺麗な顔をした少年だった。
透き通るような白い頬に、薄く色付いた唇。漆黒の艶やかな黒髪。
柄にも無く見惚れてしまった。
まるで死んでいるかのような、陶磁器でできた人形のような様子に、そっと近付いて、息をしているのか確かめた。
かざした指先に僅かにかかる吐息。
あまりにも浅い寝息に、今度は顔を寄せて確認した。
………ああ。息してる。
そう思った時には、無意識に口付けていた。この死体のように眠る少年の浅い吐息を奪ってみたかったんだ。
少年は驚いて目覚め、僕の舌に噛み付いて逃げて行った。
その後、僕はしばらく学園を離れていたから、それっきりだったけど………。
あれが眠り姫だったのか。
正宗も眠り姫にキスしたらしいが、最初に眠り姫をキスで目覚めさせたのは僕だ。
さて、眠り姫の存在は厄介な方向に向かうか、面白い方向に向かうか。
エレベーターが目的の階に着いた。
僕は同室者の待つ部屋へと戻った。
「ただいま。平野君」
リビングにいた同室者の平凡君に声をかけた。
「あっ! お、おかえり。桜ノ宮くん」
あからさまに引きつった顔になる平野を内心笑いながら聞いた。
「寂しかった?」
「え、いや、大丈夫だったよ」
「僕がいない方がいいの?」
「そ、そうゆう訳じゃ」
本当に人が良いんだから。もし僕が平野の立場なら、こんな鬱陶しい同室者は完全にシカトしている。
「明日、正宗や千里達と久しぶりにランチ食べるんだ。平野君も一緒にね」
「えっ、でも僕は………っ」
「約束だよ」
にっこり笑って自室に戻った。平野が断わりたげに見ていたが、気付かないふりで無視をした。
自室に入り鍵をかけると、鬘とメガネを外して、千里にメールをした。
『明日のランチ。平凡君を連れて行くから、君の親衛隊長煽っといて』
千里の親衛隊長は嫉妬深くて陰湿だ。平野が千里目当てで、僕にくっついて来てると思い込ませている。
だから、あいつらは平野に嫌がらせを続けていた。じっと耐えている平野を見るのは面白かった。
眠り姫の方は、どうしようかな?
僕はベッドに横になり、明日の事を干害ながら目を閉じた。
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